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2010年12月13日 (月)

「第3の開国」のための3つのイノベーション

4023308072 藤井 清孝「グローバル・イノベーション 日本を変える3つの革命」、朝日新聞出版(2010)

お奨め度:★★★★1/2

グローバルマインド」で、日本人は正解のない問題に弱いという問題提起をした藤井清孝氏の続編。グローバルマインドを持つための3つのソリューション(イノベーション)を示している。藤井氏はマッキンゼー出身で、現在はベタープレイスという電気自動車のインフラビジネスを手がける企業の日本法人の代表だが、キャリアの中でケーデンスやSAPというITやソフトウエアビジネスの会社の日本法人の代表も務めており、特にこの分野で経営や組織マネジメントに携わる人にはぜひ読んでいただきたい一冊である。

この本は非常に興味深い指摘から始まっている。それは、日本は世界でも珍しく、「秩序を壊さない」自己変革をお家芸とする国だという指摘。

「自己変革」という念仏を唱え続けることにより、本当は小手先の小さな変化を起こしているに過ぎないのに、大変革をおこなっているようと錯覚しているリーダーが本当に必要な改革の芽を摘んでいる。

という。そして、その結果として、旧世代のリーダーは「保身」、「ガバナンスの継続性」や「自分の成功体験へのノスタルジー」にしがみつき、時代が求める変化ではなく、自分の能力の範囲で可能な変化をもって変革をしたような気になっている場合が多いと指摘する。

僕は仕事を始めて25年になるが、振り返ってみるとバブルの後、つまり、25年の中の20年はずっと日本は、会社も業界も国も「自己変革」を言い続けてきたように思う。その割にはほとんど変わっていない。最近、機会があればそんな話をすることがあるのだが、必ず、そんなことはない、ちょっとずつだが変わっているという反論をされる。企業であれば成果主義になったとか、目標管理を入れたとかいう話だ。

ところがよく聞いてみると、社員には成果主義を言っているが、経営陣は成果主義ではない企業は驚くくらい多い。要するに、自己変革なので、ガバナンスは維持されているわけだ。これは企業レベルの話だけではない。国内企業だけで構成されている業界もそうだし、なによりも国がそうだ。自民党は「自己変革」をしながら、50年以上政権を維持してきたし、民主党に政権が変わっても国のガバナンスが変わったようには見えない。

これではらちがあかないというのが本書の指摘で、これから日本や日本企業がグローバルになって行くには

(1)ビジネスモデルイノベーション
(2)ガバナンスイノベーション
(3)リーダーシップイノベーション

の3つのイノベーションが必要だという。

最初はビジネスについてのイノベーションである。最近の大きな変化として、デジタル化がビジネスのあらゆる側面に浸透してきたことで、ものづくりのパラダイムが大きく変化している。従来のハードウェア生産局面での付加価値が小さくなり、ソフトウェア、標準化、ユーザインタフェースを制した企業に富が集中するようになっている。このため、日本企業は要素技術の開発だけを強いられ、果実は米国やアジアに取られている。ここだから脱出するにはオープンな環境でも収益を確保し続けれらるビジネスモデル自体のイノベーションが必要となっている。

二番目はマネジメントのイノベーションで、中でもガバナンスのイノベーションが重要であるという指摘だ。ガバナンスに関しては、日本が戦後から成功してきたモデルはすでに賞味期限が切れている。これからは成長、量産技術など、与えられた成果を最も効率的に達成する能力ではなく、問題自体を定義し、いろいろなトレードオフを内包した複数の正解らしきものを標榜するガバナンスの選択肢をつくり、それを拮抗させながら追求していく仕組み作りが求められている。つまり、ガバナンスに競争原理が必要になる。

三番目は人に関するイノベーションである。日本のリーダー育成の仕組みは構造的に脆弱であるという。日本のリーダー育成は内向きである。現在の日本の抱えている問題は要素技術や個々の現場の問題ではない。大きな仕組みを作る責任を担うべきリーダーシップの問題である。この点が理解し、リーダーシップ育成を変えて行く必要がある。

本書は、全体的な議論のフレームワークも非常に的を得たものであり、インパクトがあるが、それ以上に、個別の議論や事例のあり方の中で、今の日本のビジネスやビジネスマンが抱える非常の本質的な問題を指摘している。

例えば、藤井氏がSAPの社長のときの経験から、日本人は概念思考ができず、ソフトウェアの概念設計がうまくできないという指摘をしている。ハードウェアが中心の時代には、現場で、モノをいじくり回しながらすばらしいアイデアを出し、実装してきた。ところが、ものづくりはモジュール化し、もはやそのようなやり方はできないし、ソフトウェアにはそもそもものがない。

日経BPで、日経コンピュータの前編集長の谷島宣之さんが、「だからソフトウェアはダメだ」と同じことを指摘されている。このような問題が相当な数、指摘されている。これがイノベーションを起こしていく際の手掛かりになる。

イノベーションの突破口を開くにはもってこいの一冊である。

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