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2010年9月 8日 (水)

プレゼンが商品を孕み、商品がプレゼンを孕む

482224816X カーマイン・ガロ(井口耕二訳、外村仁解説)「スティーブ・ジョブズ 驚異のプレゼン―人々を惹きつける18の法則」、日経BP社(2010)

お奨め度:★★★★★

世界的に著名なプレゼンテーションのコーチが、プロの目からスティーブ・ジョブズのプレゼンテーションを分析し、スキルとして体系化した一冊。誰もがあこがれるスティーブ・ジョブズのようなプレゼンテーションを可能にすることを狙って書かれている。

プレゼンテーションの強化書としてはこれ以上はない一冊だ。

本書はジョブスのプレゼンテーションの体系を、以下の3つの幕、および、18のシーンで体系化し、解説している。抽象的な解説は極力控えられており、ジョブスの具体的なプレゼンテーションの資料や行動を分析している。また、それぞれのシーンにおいては、ビル・ゲイツなど、他の卓越したプレゼンテーターとの比較もさなれ、ジョブスの特徴や、行動の合理性も分かるように書かれている。

また、かなりの部分はツールとして体系化しているため、この本に書かれている手順に従えば、かなり良質のプレゼンテーションができると思われる。

第1幕 ストーリーを作る
シーン1:構想はアナログでまとめる
シーン2:一番大事な問いに答える
シーン3:救世主的な目的意識を持つ
シーン4:ツイッターのようなヘッドラインを作る
シーン5:ロードマップを描く
シーン6;敵役を導入する
シーン7:正義の味方を登場させる
第2幕 体験を提供する
シーン8:禅の心で伝える
シーン9:数字をドレスアップする
シーン10:「びっくりするほどキレがいい」言葉を使う
シーン11:ステージを共有する
シーン12:小道具を上手に使う
第3幕 仕上げと練習を行う
シーン13:「うっそー!」な瞬間を演出する
シーン14:存在感の出し方を身につける
シーン15:簡単そうに見せる
シーン16:目的に合った服装をする
シーン17:台本を捨てる
シーン18:楽しむ

スティーブ・ジョブズは誰もが、カリスマ的なプレゼンテータだと思っているが、カーマイン・ガロによると、そうではなく、練習により作り上げられた技だという。その意味で、誰もがジョブスになれるというのがガロの主張である。

なのだが、シーン4のヘッドラインのところを読んだときに、がらりと視界が変わった。それは、以下のような記述である。

ジョブスは、どの製品にも必ずといっていいほど1文で表した概要を容易する。しかもこの文は、プレゼンテーション、プレスリリース、マーケティング資料などが完成するよりもはるかに前、企画の段階で最新の注意を払って作られる。そして、終始一貫、ひとつのヘッドラインが使われる。

この本はプレゼンテーションの文脈で書かれているが、商品の開発に目を向けると、この点は極めて重要である。商品のビジョンがあり、ぶれないということだ。

ジョブスのプレゼンのすばらしさとして、聞き手に「なぜ気にかける必要があるのか」を徹底的に訴えかけるという点が繰り返し、指摘されている。これが表現できること自体が凄いことである。プレゼンテーションは、できた商品をどのように表現するかというスキルではないことがよく分かる。気にかける必要を主張できる商品であることが前提なのだ。そのような商品が生まれてくる背景に、ヘッドラインで表現される商品ビジョンが早い段階で作られ、それを内外に繰り返し、訴えることにより、定着し、ぶれずに、そこにたどり着くことを可能とするマネジメントがあるように思う。

ジョブスのカリスマ性を語る上で、よく話題になるのが、開発におけるマイクロマネジメントである。細部まで自分で決め、実現しなくては気がすまないと言われる。これまで感性的なものだと思っていたが、この本を読んでいるとそうではないことが分かってくる。ジョブスがヘッドラインに託したビジョンを開発者がくみ取れないのだろう。それを、ジョブス自身がマイクロマネジメントとして具現化しているものと思われる。

そのように考えると140文字のヘッドラインには大きな意味があるように思える。140字のヘッドラインがあるがゆえに、iPhoneのようなシンプルな商品が生まれてくる。これが280字であれば、決してiPhoneは生まれないように思う。

つまり、ジョブスのプレゼンの方法はものづくりの方法と表裏一体なのではないだろうか。「3」に拘ることは商品の戦略性の象徴であり、ユーザへの提案でもある。敵を設定し、正義の味方を設定することやメタファの提示は、ユーザのメンタルモデルの構築であり、商品への愛着を掘り起こす。

このようにジョブスは、プレゼンテーションにより、聞き手を引きつけると同時に、商品開発をコントロールし、ユーザも社員も約束した未来に連れて行く。しかも、自分も楽しみ、周囲をワクワクさせながら。

この活動は単なるプレゼンテーションの域は越え、かといってもマネジメントでもない、これまでにない新しい活動に思えてくる。そのような活動を体系的に見せてくれるこの本は、プレゼンテータやコミュニケータの教科書を越え、商品開発に関わるすべての人のバイブルになる本だと言える。

そのように考えたときに、この本を一緒に読むといい本がある。この本でも再三再四引用されている本だ。

4270004215 リーアンダー・ケイニー(三木 俊哉訳)「スティーブ・ジョブズの流儀」、ランダムハウス講談社(2008)

本書がプレゼンテーションという見せる活動からジョブスの内面を推察させられる本であるのと逆に、ジョブスの流儀はジョブスの内面を描いた本で、なぜ、ジョブスが本書のようなプレゼンをするのかを考えさせられる本である。

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