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2010年8月11日 (水)

日本で成功しないと海外で成功できないのか?

4569772951 八幡 和郎、CDI「京都の流儀~人生と仕事を豊かにする知恵」、PHP研究所(2010)

お奨め度:★★★★


京都のビジネスや文化、生活の流儀を整理し、日本(東京)のそれと比較した一冊。比較文化論だが、ビジネスマンにとってはもっと実践的で、実務に役立つ本だ。評論家の八幡和郎氏が、CDIという京都のシンクタンクと一緒にまとめたもの。



考え方や文化が混ざるときに、固有の文化と異文化のどちらがベースになるかが問題である。日本という国は、一旦、異文化に切り替えようとし、固有の文化をそこに統合していくような印象がある。要するに根がない。150年前までは鎖国をし、成熟をしておらず、過剰反応をしているだけのような気もするが、意外とこれが日本人の本質なのかもしれない。

特にビジネスの世界では、グローバル化という大義名分のもとに、この傾向が一段と顕著であるように思える。

このような風潮の例外であるのが、京都である。京都は794年(皆さんご存知、鳴くよ
ウグイス平安京です!)の建都から約1200年の長い間、独特の歴史を築いてきた。日本の中で、東京を日本の中心だと考えていない唯一の都市だといってもよいかもしれない。

京都には実は、昭和の時代に成功し、大きくなったベンチャーが多いが、基本的に

【日本】国内市場で成功してから海外へ行くのが常識
【京都】アメリカでの成功を梃子に国内市場へ食い込むのが近道

という発想がある。この本ではサムコインターナショナルの辻社長が取り上げられているが、京セラ、堀場、オムロン、村田など、まさにそうである。日本で売れなくても、世界中を見ればいくらいでも市場はあると思っている経営者が多いし、まず、日本で成功してから世界に出て行くという発想はない。その意味では片田舎の企業が、グローバル展開を行い、成長し、大企業になっていく米国に似ている。

これはビジネスだけではなく、プロ野球にもある。

【日本】プロ野球で成功してからメジャーをめざすのが順番
【京都】日本で実績を残さなくても、メジャーで活躍できる

という発想がある。

酒の席で、この話を知人にしたときに、プロ野球で目立たないとピックアップして貰えないという反論をしてきた。これこそ、東京の発想だ。例えば、大家友和という選手は日本では知らない人もいると思うが、メジャーで50勝している。この記事を書いている時点では、松坂大輔よりも上である。大家選手は京都成章高校の出身で府大会で準優勝し、横浜ベイスターズに入団するが1勝を上げただけで、メジャーに挑戦し、成功を収めた。今、レッドソックスで成功している岡島秀樹も京都の東山高校の出身である。

おそらく、野球の選手の評価は日米で異なる。日本ではだめでも米国にいったらその選手の能力が生きるということがあってもおかしくない。それをスカウトが見抜いてもおかしくないのだ。というか、その目利きがスカウトの本分である。京都は「目利き」を重視する文化がある。目利きにより、人とは違う成功をするところに京都の本分があるのだ。

そんな京都には、東京式の異文化丸呑みとは違うマネジメントの考えや方や、ビジネスの流儀が残っている。残っているという言い方は正確ではないかもしれない。「ある」というべきか。

そのような流儀を21に整理して、読み応えのある紹介をしている。

【日本】東京大学より京都大学の方がノーベル賞が多いのは謎だ
【京都】京都大学は日本一にこだわらないから世界に通用する

【日本】「情報公開」や「説明責任」でなんでもはっきりするのがよい
【京都】「全部いうたらあかん」というのが大人の世界のルール

【日本】「お客様は神様」はビジネスの鉄則だ
【京都】いいものを売れば客にも威張っておられる

【日本】どんな客も断らないのが商売人のモラル
【京都】「一見さん、お断り」こそ、経済合理性にかなう

【日本】不正に対しては「迅速対応」が何より大事
【京都】あわてても仕方ないことは気を落ち着けてから

【日本】日本で生きたいなら日本人になりきれ
【京都】変な外国人が京都には多いが嫌がられてはいない

【日本】時間さえあれば思索はどこでもできる
【京都】本当にものを考えるにはそれにふさわしい環境が必要だ

といったところ。その中に、

【日本】国民が愛国心を持つようにしなくては日本はだめになる
【京都】日本の文化に親しめば自ら日本を愛する気持ちも生まれてくる

という比較がある。これが今の日本を象徴しているのではないだろうか。欧米の文化を無節操に受け入れ、愛国心も持てといっている。あり得ないだろう。

ビジネスでも同じだ。欧米の考え方を何の批判もなく受け入れ、グローバル競争に勝てといっている。あり得ないように思える。もし、本当に欧米が100年かけて築いてきたものを、部分的とはいえ、あるいは部分的に10年ほどで取り込んで勝てると思っているのなら、傲慢以外の何物でもない。

同じ手口で高度成長期に成功した成功体験があるのだと思うが、モノ(商品)と文化(マネジメント)を一緒にするのは愚かだ。そんなことを考えさせてくれる本である。
 

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