未来への洞察を折り込んだ戦略計画を作る思考フレームワーク
西村 行功「戦略思考のフレームワーク―未来を洞察する「メタ思考」入門」、東洋経済新報社(2010)
お奨め度:★★★★★
戦略の策定に役立つ思考フレームワークを4層のアーキテクチャーにまとめ、それぞれについて例を交えながら解説している。4層とは
シナリオシンキング>システムシンキング>ロジカルシンキング>思考のOS
という階層である。戦略策定の視野は、現在から因果関係の明確な近い未来までであることが、多い中で、シナリオを体系の中に取り込むことによって、時間的に長い視野で戦略を策定する必要を提案している。著者はシナリオプラニングの日本の第一人者であり、90社のシナリオプラニングに携わってきた思考ノウハウを「未来を洞察するメタ思考」として公開した一冊。
未来を洞察する戦略思考のフレームワークの最下位ブロックは、思考のOS(オペレーションシステム)と呼ぶもので、基盤になる思考法である。この層に必要な思考法として
・因果関係を考える
・全体から個を考える
・個から全体を考える
・定量的に考える
の4つを取り上げている。その上でのブロックはロジカルシンキングで、問題を分解・分析し、要素をしり、また、構造を知るのに役立つブロックである。これはいまさら説明の必要はないだろう。
その上は、システムシンキングである。このブロックは、要素間の関係を知る、そして、要素間の因果関係を一つのシステムとして捉え、システム全体が時間とともにどのように変わっていくかを知るのに役立つ。
未来を洞察する戦略思考のポイントはその上で第4階層にある。第4階層は、シナリオシンキングで、システムシンキングを発展させ、不確実性のある未来を考慮し、「起こりうる」未来シナリオを知るのに役に立つ思考法である。
本の構成としては、第1~3層の思考法は第1章で簡単にポイントを説明されている。思考のOSについては上に紹介した4つである。ロジカルシンキングについては
・MECE
・ロジックツリー
・仮説思考
・肌感覚
の4つ。肌感覚というのはあまり他書では見かけない言葉だが、思考プロセスに関わるもので、ロジカルシンキングでブレークダウンしていくときに、日常生活など、われわれの肌感覚が効くところまで落とし込むことを言っている。些細なことだが、普段、困ることが多いので、重要なポイントだと言える。
次に、システムシンキングについては、
・相互依存とフィードバック
・因果関係のリンク
・時系列グラフ
・時間的遅れ
の4つをポイントとして説明している。この本を読めば、だいたい、分かるか、もう少し、詳しく知りたい人は、日経文庫から著者の本が出ているので、併せて読むことをお奨めする。
西村 行功「システム・シンキング入門」、日本経済新聞社(2004)
最上位のシナリオシンキングについては、
因果思考、演繹的思考、帰納的思考を活用し、ロジカルシンキング、システムシンキングを駆使しながら、外部環境を考察し、統合するための思考法
だと位置づけており、鍵になるのは
・オープンマインド設定スキル
・フレームワーク活用スキル
・プロセスマネジメントスキル
だと述べている。この本は基本的にシナリオシンキングの本であり、第2章以降は、シナリオシンキングについて上の3点を中心に詳細に、かつ具体的に説明されている。
最初のオープンマインド設定スキルは、一言でいえば、心(眼)をひらいて、客観的に起こりうることを考えるスキルで、ポイントになるのは、以下の4点だとされる。
・強制発想をする
・べき乗のインパクトを知る
・ユーザー・コホートの変化をみる
・歴史から学ぶ
フレームワーク活用スキルは文字通り、フレームワークの活用のスキルである。本書では、シナリオ作成ステップは
1.シナリオテーマの設定
2.適切なフレームワークを使った情報収集
3.情報分析によるシナリオ仮説の作成
4.先行指標のウォッチによるシナリオの方向感の確認
という4つのステップを基本としている。このステップにおいて、適切なフレームワークを適切に活用するスキルである。このスキルのポイントは
・アウトサイド・インの思考フレームワークの活用
・演繹、機能、そしてアブダクション思考へ
・世の中の情報キャッチのアンテナ
・メタ思考によるズームアウト
の4つだという。このうち、特に重要だなと思うのは、アウトサイド・インである。これは、「外を主体として内を考える」ということ。実際にシナリオを作って見ると、なんとなく自分たちの作りたいシナリオがあって、それに併せて情報を集めてくることが多い。これをやると適切なシナリオはまずできないし、そのあとの多くのシナリオ作成のための時間は無駄になってしまう。
三番目のプロセスマネジメントスキルは、シナリオ作成をグループで行うとき(通常、10~20名だという)、ファシリテーションをしっかりとし、適切なプロセスで作っていくことを意味している。ここでは、
・発散と収束を繰り返す
・議論の安全地帯を作る
・アウトサイド・インの落とし穴を避ける
ことがポイントである。
このブログで、何度か取り上げているが、著者はシナリオシンキングの具体的な手法の本も出している。
西村 行功「シナリオ・シンキング―不確実な未来への「構え」を創る思考法」、ダイヤモンド社(2003)
この本は実践的な、使いやすいシナリオプラニングの方法を提案されており、良い本だと思うのだが、戦略策定の中でどのように使えばよいか、あるいは、戦略策定を見据えたポイントのようなものがイマイチはっきりしなかった。
今度の本はこの点についてかなり明確に説明されており、両方あるいは、上に紹介したシステムシンキングの本も併せて読めば、それなりに戦略策定の中で、シナリオプラニングが使えるのではないという感触を持った。
ちなみに、弊社ではシナリオプラニングを、プロジェクトの企画にも使っているので、経営企画だけではなく、現場リーダーにもぜひ、読んでおいてほしい本だ。
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