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2010年4月18日 (日)

ビジネスの海の海図を描き、航海をする

4492532692 平井 孝志「戦略力を高める」、東洋経済新報社(2010)

「現場」と「構想」をつなぐ「組織」の力をどう高めるかを議論した「組織力を高める」、売れる商品を作り続けるために顧客とどう向き合うかを議論した「顧客力を高める」に続き、思考の質やスピードという戦略力をどう高めるかを議論した第三作。

オーソドックスな戦略論と戦略実行論を独特の表現や、経験に裏打ちされた事例を使って解説されている。ビジネスマンにとって不可欠になってきた戦略力を高めたいすべての人にお奨めの一冊。特に、洋物の戦略論を読むと、言葉だけでいやにやるという人には、吟味された表現されている本書がお奨め。

本書の問題提起は、激しく変化する経営環境の中で、「流されている」という意識を持っているということだ。そのような感覚は
・決めるのではなく、決まるのを待っている
・安易な対応策を選んで、なんの問題解決にもならず、もとの問題に戻っている
・主体性の喪失
といった問題を背景にして生じている。このような問題を解消するには、戦略力が必要である。

戦略には、

・将来のあるべき姿
・現状の正しい認識
・戦い方の明確化

という3つの要素が含まれている。この3つの要素をもって、本書では戦略を、「今、いる港から目的地である港を目指して出発しようとしている船が持つべき航海図(海図)」に喩えている。そして、航海な海図は
・全体像が大きいこと
・変えてもよいものと、変えてはダメなものが明確になっていること
の要素を備えている。つまり、完成品ではなく、考え続けるプロセスである。このような意味で、「戦略力」を

あるべき姿に至る海図を描く続ける力

と定義している。

さて、問題は戦略力(海図)の品質である。戦略力を落とす原因になるのは、

・空間的な広がりが不十分
・環境変化を読み誤る
・因果の連鎖を読み切れない
・成功体験にとらわれる
・問題の裏返しを答えだと考えてしまう

といったことが考えられるのだが、そのような状況を引き起こしてしまうのは、戦略を創るということは、自分で問題を定義して、自分で問題を解いていく作業であることに起因する。特に、どのように問題を定義するかが難しい。それは、「経営の複雑さ」に関わってくるからだ。経営にはひと「人」、「経営」、「製品やサービスの価値」、「技術」などのさまざまな側面があり、問題へのアプローチも数多くある。その中から、問題解決の「ツボ」を見つけなくてはならない。

これが、著者の基本的なスタンスである。これは、ちょうど、システム思考で、環境の構造を明確にして、レバレッジを探して手を打つという話である。

次に、こういった難しさ、難しさへの対応方針を踏まえて、戦略力を4つの「素力」に分解している。4つの素力とは

(1)環境変化の先を読む力
(2)あるべき姿を描く力
(3)自分を見つめ直す力
(4)「道筋」をつくる力

の4つである。

(1)の先を読む力では、論理と発想で未来を見る発想の重要性を説くとともに、環境変化の鍵になるドライバーとシナリオで不確実性に対応する方法を説いている。そして、シナリオの中で、本質を見極めるために構造の理解が重要だとし、その方法として
・自分化と単純化
・アナロジー発想
・持論をもつ
ことを推奨している。

(2)のあるべき姿を描く力を身につけるためには、BHAG(Big Hairy Audacious Goals)というコリンズの「ビジョナリー・カンパニー」で提唱されたフレームワークを薦めている。BHAGは

・自社が世界一になれる部分
・情熱をもって取り組めるもの
・経済的原動力になるもの

のすべてが成り立つ部分をビジョンとしようという考え方である。

(3)の自分を見つめ直す力では、ポジショニングとリソースを上げている。ポジショニングの例としてポーターのファイブフォース、リソースの例としてバーニーの「VRIO」について簡単に解説されている。また、強みと弱みを併せて分析する方法として、SWOTについて触れている。さらに、強みということでは、競争力と持続的競争力は違うことを強調し、

・複雑に絡み合う組織内ルーティン
・使いべりしない「見えざる資産」
・因果関係の曖昧さ

などが、競争力を持続的競争力に変えていくとしている。

最後は、現状からあるべき姿までの「道筋」をつくる力である。ここでは、着眼大局・着手小局の重要性を説いている。その中で、連続的にあるべき姿にたどりつくのではなく、不連続であることを前提にすべきだと述べている。不連続性にうまく対応するために「ビジネスアーキテクチャー」の重要性について触れている。

次に、これらのインプットを使って、戦略の作成を7つのケースで演習として行っている。演習の解説は簡単なものであるので、おそらく、このケースを読んで前のパートをめくり直し、確認していくような用途なのだろう。

最後は、戦略力を高めるポイントということで、4つの素力に加えて、マインドセットとして、

・志:より高みをめざす
・学:自分の幅を広げる
・力:回りを動かす
・友:仲間を増やす

が必要だとしている。

戦略論はどうしても、盲人が象に触れるようなところがある。本書でも強調しているように戦略の重要性はかなり認識が高まっているにもかかわらず、あまりにも多くの本や理論、あるいは持論があり、何から切り込めばよいか分からない印象が強い。つまり、戦略不在という問題に対する戦略的アプローチの切り口に戸惑っているのが現状だと思う。

この問題に対して、一定のまとまった答えを与えてくれる本だ。戦略的マネジメントの中で、戸惑っている人は、ミドルであれ、メンバーであれ、ぜひ、読んでみて欲しい本である。

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