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2010年3月11日 (木)

問題は「何が問題か」わかっていないことだ

4862760643 マイケル・ロベルト(飯田 恒夫訳)『なぜ危機に気づけなかったのか ― 組織を救うリーダーの問題発見力』、英治出版(2010)

お奨め度:★★★★

150人以上の企業経営者や、事業部のリーダーや部課長クラスの人の意見を聞いて、まとめた問題発見の実践的方法論についてまとめた本。

最近、問題発見の書籍が増えてきた。問題発見の重要性は今、始まった話ではない。1997年に出版された問題解決ブーム、問題解決手法の普及のきっかけになった齋藤 嘉則さんの『問題解決プロフェッショナル「思考と技術」』の姉妹編として、2001年に


齋藤 嘉則『問題発見プロフェッショナル―「構想力と分析力」』、ダイヤモンド社(2001)

という名著が出版されている。この本は、基本的な考えと、手法を中心に説明されたものだが、手法について述べた本では、出版より10年経つ今でも、この本がベストだと思える。

この本は研修でなんとも使わせていただいた。研修の受講者の評判もいいのだが、僕自身は限界を感じている部分があった。思考法の問題だけではないということだ。問題解決もそのような面があるが、問題発見は頭で考えるだけではできない。行動を伴う必要がある。つまり、思考スキルだけではなく、行動スキルや能力が必要である。その行動について書かれた本がこの本である。著者のマイケル・ロベルト氏は大学の先生であるが、冒頭にも述べたように、大学の先生ならではの調査力を発揮し、リーダーが優れた問題の発見者になるには、以下の7つのスキルと能力を身につける必要があることに気づいた。7つのスキルとは以下の通りである。

(1)情報のフィルターを避ける
部下たちは情報にフィルターをかける。たいていは、リーダーの貴重な時間を無駄にしたくないという善意によるものだが、時には悪いニュースをフィルターにかけて撥ねてしまうので、問題を発見するにはこうしたフィルターを避けなければならない。

(2)人類学者のように観察する
人に質問するだけではなく、自然な環境の中で人々の集団を観察し、その行動を見守らなければならない。人の言動は一致しないものだからだ。

(3)パターンを探し、見分ける
過去の個人的な経験や組織としての経験をチェックすることによって、問題のパターンを探し、見分けることができる

(4)バラバラの点を線でつなぐ
危険の兆候はあちこちに散らばっていることが多いので、一見バラバラにみえる情報の断片の中から「点をつなぐ」能力を磨かなければならない。細切れの情報をたくさん集めて、やっと組織の抱える問題が見えてくる

(5)価値のある失敗を奨励する
部下にリスクをとることを促し、失敗から学ぶ方法を教えて行かなくてはならない。失敗の中にも有益なものがあり、それが学習と改善の機会になる。その際に重要なことは、有益な失敗とその他の失敗を区別することである。

(6)話し方と聴き方を訓練する
自分自身のコミュニケーション能力だけでなく、組織全体のコミュニケーション能力を磨かなくてはならない。部下に率直かつ効果的な話し方を教え、組織のあらゆる階層のマネジャーに懸念を伝えたり、問題を指摘したり、問題のある部下にうまく対応する方法を教える必要がある。

(7)行動を振り返り、反省のプロになる
反省し、見直すことに熟達し、新たな行動を効果的に練習する方法を考えなければならない

本書はこの7つのスキルに各1章を割き、インタビューで得られた事例を使いながら、それぞれがどういうことを言っているのかを具体的にイメージできるように解説している。その内容はベストプラクティスでもあり、選んでいる事例が誰にでも背景をイメージできるようなものが多い。その点で、読む価値のある本である。

ただし、問題発見というのは問題解決に比べると相当難しいスキルである。特に、道具箱をたくさん持ち、その中から道具を引っ張り出して来ないと歯が立たない問題も少なくない。この中の事例も文章で書けばなんでもないことだが、実際にやるには十分な準備や、支援ツールが必要だと思える事例が多い。

そこで、併せて、齋藤さんの本を読み、手法的な背景を持ちながら、本書を参考にすることをお奨めする。

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