管理のための見える化から、マネジメントのための見える化へ
長尾 一洋、小関 由佳「見える化コミュニケーション」、中経出版(2009)
お奨め度:★★★★1/2
見える化といえば、
トヨタ 管理 改善
という連想ゲームが長く続いていたが、最近、かなり、風向きが変わってきた。マネジメントの手段になってきたのだ。そのきっかけになったのが、NIコンサルティングの長尾 一洋さんが、自分たちのメソッドを書籍化されたこの本。
長尾 一洋「仕事の見える化」、中経出版(2009)
長尾さんの本は、新幹線においている雑誌「WEDGE」の連載を読めば内容が分かるので購入することは少ないが、この本あたりから、購入するようになった。このあと、「営業の見える化」、本書とだんだん、マネジメント色が強くなってきている。
その意味で、集大成になっている一冊。
この本が唱える。「見える化コミュニケーション」は、心理学でいうところの「ストローク」をコミュニケーションの中心においたコミュニケーションを「見える化日報」と8つの仕掛けで実現することを基本としている。
ストロークとは、相手を認めたり、声をかけたりする、働きかけで「心の栄養」とも呼ばれる。ストロークには、プラスのストロークとマイナスのストロークがあり、日報を使った日報ストロークを出し、ストロークバンクにストロークがなくならないようにしていくことを基本行動をする。
見える化日報の目的は、「社員一人一人の心が元気になり、仕事に対して前向きに取り組みことで、そのための見える化日報の導入目標は
・会社と社員の間でビジョンの共有ができている
・会社と個人は対等な立場である「全員一如」という考え方がある
・自己の重要性を感じ他者から承認が得られる
である。この目標のために、以下の8つのしかけを作る
(1)「考える社員を作る」しかけ
(2)「社員の頭の中を見える化する」しかけ
(3)「よい仕事を見える化する」しかけ
(4)「企業戦略を現場に落とし込む」しかけ
(5)「経営をリアルタイムでモニタリングする」しかけ
(6)「顧客を取り込む釣り堀をつくる」しかけ
(7)「社員の顧客志向を高める」しかけ
(8)「顧客情報をさらに集める」しかけ
それぞれのしかけにおいて、以下のような工夫をするとよい。まず、(1)については、
・考えなくてはかけない日報にする
・自分で計画を立て、計画に基づく報告をする計画書日報にする
といったところがポイントになる。(2)については、
・Plan → See → Do → See のPSCSサイクルを作る
が重要である。(3)については、
・グッドジョブポイントでストロークを見える化する
・地味な仕事にスポットライトを当てるグリーンカードの導入
などが考えられる。(4)では
・ビジョン、戦略とのずれを見える化日報でコミュニケーションする
・コックピットに見える化日報の情報をリアルタイムで反映する
などの工夫が考えられる。(5)では、ITの活用がポイントになる。その際に、経営数値という過去のデータから、未来を見通すことが求めら、そのためには、結果指標と先行指標を明確に区別し、見える化をしていくことが重要である。
(6)においては、
・過去のデータを顧客カードにする
・失注も情報とする
・常に次のチャンスのことを考える
といった考え方で、データを釣り堀にためていくとよいだろう。(7)においては、
・顧客情報を営業部門だけのものにしない
・伝えるのではなく、毎日、何度も見せる
ことが重要だ。(8)においては、
・営業部門が諜報部員になる
・営業がとってきた情報を、みんなが活かす
といった工夫が必要である。
マネジメントの教科書を見れば、真っ先に、ビジョンを作り、それを全社員に浸透していくことが何よりも大切だと書いてある。口でいうのは、極めて簡単だが、対話をしましょう、質問会議をしましょうといってみても、なかなか、できるものではない。その点、「日報」というハードルの低いコミュニケーション手段に工夫を凝らすことにより、ビジョン浸透をはじめとするマネジメントを行っていくという考え方は現実的であるし、効果的であるように思える。2000社以上の企業に導入されているというのも伊達ではないといったところだろう。
ちなみに、このようなマネジメント分野はソフトマネジメントと呼ばれ、ある程度、体系化されている。たとえば、僕がよく参考にする本に
ロッシェル カップ「ソフト・マネジメントスキル―こころをつかむ部下指導法」、日本経団連出版(2003)
という本があるが、本書はこの範囲をほぼ、カバーしているように思う。見える化でできることは思っているより多いのかもしれない。
この本では、日報に
・成功
・問題
・対策
・報連相
・GOOD&NEWS
を書くことを前提にしているが、実際に提案されているしかけを作るには、日報に工夫をする必要があるように思う。そのためのヒントになる書籍を紹介しておこう。
松井 順一、 石谷 慎、佐久間 陽子、小嶋 美佳「仕事の「見える化」99のしかけ」、日本能率協会マネジメントセンター(2009)
である。この本は、ありそうでなかった本。見える化のしかけを
・組織・体制を「見える化」するしかけ
・プロセスを「見える化」するしかけ
・仕事環境を「見える化」するしかけ
・仕事を「見える化」するしかけ
・管理・改善を「見える化」するしかけ
の5つのカテゴリーに分け、具体的な99のフォーマットでしかけを紹介している。それを使った見える化のステップとして
ステップ1:めざす姿を定義する
ステップ2:行動を明確化する
ステップ3:みるべきものをきめる
ステップ4:日常的に見える工夫をする
ステップ5:見える化を実践するツールを準備する
という5ステップを提唱している。日報を使った見える化を実現していくのに、この5ステップや99のツールは有用である。併用するとよいだろう。
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