プレゼンテーションへの禅的アプローチ
ガー・レイノルズ「プレゼンテーション Zen」、ピアソンエデュケーション(2009)
お奨め度:★★★★★
世界的に注目されている「抑制」、「シンプル」、「自然さ」を方針とするプレゼンテーション(コミュニケーション)アプローチ「プレゼンテーション Zen」の解説書がやっと翻訳された!文句なしの買い。
プレゼンテーション Zen」のアプローチの原点は2006年に出版された
ダニエル・ピンク(大前 研一訳) 「ハイ・コンセプト「新しいこと」を考え出す人の時代」、三笠書房(2006)
にある。ダニエル・ピンクは、「コンセプト」の時代には、「ハイ・タッチ(感性)」や「ハイ・コンセプト(創造)」が最優先されると述べている。そして、ハイ・コンセプトの中では6つの資質、「デザイン」、「物語」、「調和」、「共感」、「遊び心」、「生きがい」が不可欠であることを指摘している。そして、ハイ・コンセプトを実現するためには、今のプレゼンテーションに、「プレゼンテーション Zen」アプローチを取り入れる必要がある。
このアプローチは、箇条書きだらけのPowerPointのプレゼンテーションを捨てるものである。ただし、PowerPointを捨てることではない。PowerPointというツールを使って、「抑制」、「シンプル」、「自然さ」を重視したプレゼンテーションを行うことである。
「プレゼンテーション Zen」のインスピレーションとなったのは、新幹線の弁当である。この本は、プレゼンテーション Zen」を準備、デザイン、実施の3つのセクションに分けて説明している。
「プレゼンテーション Zen」の準備とデザインは実施は創造的な行為である。創造のためには、偏見のない心と失敗をいとわない姿勢をもち、制約を敵ではなく、味方だと考える。そして、自制心を働かせ、「抑制」、「シンプル」、「自然さ」を意識することが重要である。
計画においては、2つの問い
・核となるテーマは何か
・なぜそれが重要なのか
の2つの質問の答えが鍵になる。そして、もう一つ考えたいことは、一つしか聴衆の記憶に残らないとすればそれは何であってほしいか?という質問にもも考えてみよう。
質問に答えるに当たっては、日常の忙しさを忘れ、スローダウンすることによって、問題や目標を見極めることが重要である。そのためには、一人の時間を作り、物事の全体像を把握するとよい。
次に、ストーリーを作り上げる。この際に、考えたいことは、心に残るメッセージとはどんなものかということ。次のようなことが考えられる。
・単純明快である
・意外性がある
・具体的である
・信頼性がある
・感情に訴える
・物語性がある
このような条件を満たすメッセージを以下のようなステップで作っていく。
ステップ1:ブレーンストーミング
ステップ2:グループ化と核になるメッセージの特定
ステップ3:ストーリーボードを作成する
ステップ4:スライド一覧を使ってストーリーボードを作る
重要なことは、常に自制心を持ち、核となるメッセージに立ち返ることを忘れないことである。
準備が終わったらデザインだ。デザインにおいて、禅の美学になっている概念に目を向けよう。たとえば、
・カンソ
・シゼン
・シブミ
・わび・さび的な簡潔性
である。シンプルさは不要なものを慎重に取り除くことによって実現できる。よいデザインは、足し算ではなく、引き算で考えるとよい。
デザインの原則として意識すべきものは7つある。
・シグナル/ノイズ比
・画像優位性効果
・余白
・ビック4(コントラスト、反復、整列、接近)
の7つだ。
実施(デリバリー)においては、まず、その場に完全に集中することが重要である。そして、観衆と心を通い合わせることだ。
プレゼンテーション Zenのアプローチはどのような場合にも適しているとは限らない。たとえば、トレーニングのように知識を伝えるためのプレゼンテーションには必ずしも適さない。しかし、コンセプトワークにおいては、これ以上はない武器になる。
言い換えると、
・核となるテーマは何か
・なぜそれが重要なのか
の2つの質問が重要なプレゼンテーションをする機会が多い人は、ぜひ、見につけるべきプレゼンテーションすきるだといえる。
ちなみに、本書には、DVD版がある。僕は見ていないので、お奨めできないが、50分で、日本語字幕が入っているらしいので、この本に限ってはこっちの方がよいかもしれない。
Garr Reynolds「Presentation Zen: The Video (DVD) 」、New Riders Press(2009)
コメント