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2009年8月 7日 (金)

技術を推進力とするプロデュース

4396111673 宮永 博史「理系の企画力!-ヒット商品は「現場感覚」から」、祥伝社(2009)

お奨め度:★★★★1/2

東京理科大学の社会人向けのMOTコースは、日本の経営学の重鎮のひとりで、「人本主義」とか、「場のマネジメント」といったユニークな理論を構築されてきた伊丹敬之先生をはじめとする、質の高い教員を抱えた実践的なコースと評判のコースで。

その中でも、技術経営の分野に、セレンディピティというユニークな概念を持ち込まれている宮永先生のカジュアルに読める一冊。

理系発想の企画の極意を9つの法則にまとめ、事例を使いながら説明されている。

まず、9つの法則を見てみよう。この9つだ。

第1則 現場は観察するだけでなく、実際に体験する
第2則 一面からのモノの見方にこだわらない
第3則 使う人が求める究極の我儘こそ、発想基準
第4則 はじめにコンセプトありき
第5則 すぐれた技術は感動を生み出す
第6則 最初から二兎を追う
第7則 異なる分野の技術を結集する
第8則 技術はわかりやすく翻訳する
第9則 商品はロングセラーを前提に考える

この9則はいずれも、技術をうまく商品に結びつけている企業を思い浮かべると「うんうん」という感じなのだが、逆にうまくできていない企業で最もよく見るのは第4則である。宮永先生はこの法則の説明の中で、「技術主体の目標設定をしていませんか」という問いかけをしている。これは耳の痛い問いかけではないだろうか?

技術に絡めた企画をしてくださいというと、技術の棚卸しをして、その技術が何に使えるかという議論を始める人が多い。これをやっている限り、うまくいくのは、「まぐれ」であって、セレンディピティも起こらない。

目的があるから、技術が開発できる。商品開発の中で目的とは何かと考えてみると、コンセプトに他ならない。目的を実現するとはコンセプトを実現することである。

極論すれば、こういう商品というコンセプト(こういうことを実現したいという目的)があるから、技術が開発できると言ってもよい。

第4則の中で、iPodの話が出てくる。iPodを開発したジョン・ルビンスタインは、ジョブスがネクストコンピュータを立ち上げたときに誘いを断り、独自の事業をやっていたが、ジョブスがアップルに復帰したときに、再び、誘われてアップルに入り、マッキントッシュの復活に力を貸す。

ある日、東芝で打ち合わせをした後で、幹部が極秘に極小のハードディスクドライブをみせてくれた。ジョブスからマッキントッシュ以外にも、携帯用音楽プレイヤーの開発の命を受けていたルビンスタインは、ひらめき、その場で専売契約を約束させた。

これがiPodの大成功に発展していく。この話の面白いのは、超小型のハードディスク技術を求めていたわけではない。携帯用音楽プレイヤーのコンセプトがあり、偶然、超小型のハードディスク技術に当たって、これだと思ったわけである。

宮永先生は、もし、ルビンスタインが音楽プレイヤーの話をしにきたのだったら、超小型ハードディスクをみせなかったのではないかと指摘している。コンピュータの部品の打ち合わせにきたから参考にみせたというのだ。そのとおりだと思う。

こういった技術との出会いによるコラボレーションをうまく受け止めるには、コンセプトを持っていることが不可欠なのだ。

従来の技術ありきの発想では、技術同士を結びつけて何かそこで創発されることを期待する方法よりは、物語性が強く、プロデュースとでもいうべきものである。その意味で、この本1冊、技術的な色彩の強い分野で、技術を推進力としたプロデュースを成功させるための秘訣を述べている。

技術者にとって、常にこの9つの法則を念頭において仕事をしていくことは、とてつもない成果を得るための条件になるのではないだろうか。

なお、ハウツー的ではなく、もう少し体系的、あるいは理論的に学びたい向きには、冒頭に述べたMOTコースのために書き下ろされた本があるので、こちらを読んで見てほしい。難しいが、こちらは★★★★★。

490433616x 宮永博史「顧客創造 実践講座 ケースで学ぶ事業化の手法」、ファーストプレス(2008)

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