「すりあわせ」というパラダイム
山本 修一郎「次世代プロジェクトリーダーのためのすりあわせの技術」、ダイヤモンド社(2009)
お奨め度:★★★★
今年になって、すりあわせをテーマにした本が2冊出版された。
そのうちの一冊がこの本。この本は、新規ビジネス開発をテーマに、その中核となるシステムの開発を行う様子を物語仕立てで描いたもので、その中で「すりあわせ家」が専門家の対立や協同をうまく調整しながらプロジェクトを成功に導いていくというもの。
著者はこの物語を通して、すりあわせに必要なものとして、
・オープンイノベーション
・価値指向
・顧客指向
・活用指向
・要素分解力と結合力
・構造化・相対化・統合化
・つながり指向
・進化指向
・情報共有
の9つの要素をあげている。
全体の90%くらいが物語になっており、残りの10%が物語を受けた論理的な解説になっている。物語の部分を読んだ印象は、システム開発というドメスティックな仕事で、細部がやたらとリアルに書かれているが、全体として何を言っているのかよくわからないというものだった。とりあえず、読み終えたような印象だった。
ところが、最後の解説を読んで、もう一度、読み直してみると、なかなか、よくかけていることがわかった。すりあわせというのをヒューマンスキルだとイメージしていたのだが、実は単なるヒューマンスキルではない。仕事の仕方のパラダイムであり、そのパラダイムの中で、技術(特にアーキテクチャー)もビジネスも、プロジェクトマネジメントも、マネジメントも行われる。キャリアもそのパラダイムの中で動いている。この発想はなかなかよいと思う。
ただ、逆に、この本で著者が伝えようとしているすりあわせ技術がドメスティックな印象がぬぐえない。おそらく違うのだと思うが、では、ほかの業務に持って行ったときに、どのように同じ構図を描けばよいかを想像できるには至らなかった。その意味で、ビジネス書としては後一歩であるが、IT分野の本としてみれば5つ星の本だ。
特に、IT業界における技術経営的な視点から、多くの示唆に富む本で、IT企業のマネジャーには一読を勧めたい本である。
ビジネス書としてみれば、こちらの方がおもしろいと思う。
辺見 芳弘「「擦り合わせ」思考力」、PHP研究所(2009)
お奨め度:★★★★
こちらの本は、専門家ということではなく、異質と異質のすりあわせをテーマにしている。山本氏の本ほど、理論化されていないが、主に、著者自身の体験で書かれているので、説得力があるし、僕は共感する部分が多かった。この本を山本氏のフレームワークにあわせてもう一度読み直してみたが、やはり、完全にマッピングすることは難しかった。山本氏のフレームワークの中に入っているように思う。
その意味で、何か足らない部分があるのかもしれないが、それが何かを考えてみるとおもしろいかもしれない。これは今後の課題としておこう。気がついたことがあれば、「一つ上のプロマネ。」ブログに書きたい。
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