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2009年3月24日 (火)

初対面の相手に信用を得るための手練手管

4062724669 佐藤 六龍「江戸秘伝 職養道のすすめ」、講談社(2007)

お奨め度:★★★★★

職養道とは、「職を養う道」のことで、江戸時代に年季明けで独立していく職人たちに、師や親方が授けた職業上の心得の集大成である。

江戸時代に、日用品や食料品を売る「生業」と呼ばれる仕事で一応の信頼を得ることは難しいことではなかった。実際にものを売るからだ。これに対して、医者や髪結い、大工、左官、易者など、「九流之術師」と呼ばれる仕事では、初対面相手から信頼を得ることは難しく、そのために各職業には「職養道」と呼ばれる仕事の上の心得が伝えられていたという。職養道は口述だったので、明治維新の近代化の波に飲まれて衰退し、戦後は完全に消滅したと思われていたが、橘哲州という占術家によって継承されており、橘哲州と箱根で一夜をともに過ごすことになった著者が話を聞き、あまりのおもしろさに著者の主催する運命学の教室で、「怪しげな職業の人間が相手の信用を得るための手練手管」として教えているそうだ。

それを書籍化したのが本書である。

ちなみに、現在、「職養道」を身につけて大成功しているのは細木数子だそうである。テレビに出てくる彼女の話を聞いていると、非常にもっともらしく聞こえるのだが、その背後にあるのが「職養道」ということらしい。

近代化された現代では、江戸時代に「九流之術師」と呼ばれていた仕事の多くは国家資格を始め、公的機関の資格ができているものが多いことを考えてみても、やはり、「職養道」なるものは必要だったことがよくわかる。

では、現在の「九流之術師」はどんな人たちかと考えてみると、はっと思う浮かぶのはコンサルタントであるが、それ以外となるとほとんど資格化されている。コンサルタントにも中小企業診断士や技術士、ITコーディネータのような資格はある。

だから、「職養道」はいらないのかと思ってみると、意外とそうでもない。例えば、すべての職業に共通していの一番に書かれているのは

「同業者の悪口は言うなかれ」

だそうである。自分の腕も上げずに、同業者の悪口を言っているようでは成功はおぼつかないということを書いたものだと解説されているが、同時に、「職養道」では、お客に同業者の腕に疑念を抱かせるための技も教えているそうだ。

こういう例が書いてある。顧客からライバルのことを聞かれたら

「いい腕ですよ、私などおよびもしないものを持っておられます」

とまず、持ち上げる。その際に語尾のところで、すっと語勢を弱めるというのだ。すると、お客は口にしたこととは別のものを感じるといった教えがあるそうだ。僕もこの手口はよく使っている。

「○○ファームをどう評価します」

とクライアントに聞かれることがよくある。

「すばらしいと思いますよ。スタッフは多いし、優秀だし、ケースも膨大に裁いています。弊社なんかが太刀打ちできる相手ではないですよ。。。」

聞く目的は、自分の選択が正しいことを確認したいのだ。このケースで敵意むき出しにして非難すれば、却って不審を買う。奥が深い。

こんな教えが全部で二十条ある。

第一条  同業者の悪口は言うなかれ
第二条  一切の弁解はするなかれ
第三条  思いやりは全身全霊で見せろ
第四条  芝居はするべし、するべからず
第五条  嘘はついてもだますなかれ
第六条  仏壇を見よ
第七条  後の心配りを忘れるなかれ
第八条  値は自分でつけよ
第九条  笑顔は売り物と心得よ
第十条  恩は売り買いするものにあらず
第十一条 金は貸すな、与えろ
第十二条 妖気ある人物とつきあえ
第十三条 金は後からついてくる
第十四条 地元の人に可愛がられるべし
第十五条 仕事の成否は段取り次第
第十六条 天にかなう陽気を心がけよ
第十七条 言葉は身のすべてを表す
第十八条 勤勉だけでは数字はあがらない
第十九条 明日を思うな、今を生きろ
第二十条 客を集めてこそ職養である

半分くらいは、今でもよくいうことだろう。上にも書いたが、コンサルタントというのは資格はあるし、僕は技術士の資格を持っているが、やはり本質は「九流之術師」、特に実績ができるまではやはり初対面の相手に如何に信用して貰うかで苦労する。

そのときに、先輩のコンサルタントからいろいろアドバイスを受けた中に、この20のうちの半分くらいは入っている。「職養道」は口伝だというのだから、橘哲州から体系的に勉強したわけではないだろう。やはり、なんやかやで、伝わっているのだと思う。

そして実際に、僕が心がけられているものがある。それだけとは言わないが、それで膨大なアセット化をして商売をしている外資系大手コンサルティングファームにコンペで勝てることもあるのだから、江戸時代の「職養道」も捨てたものではない。日本流のビジネスのベストプラクティスかもしれない。

まあ、コンサルタントの人はだまされたと思って読んでみてほしい。もちろん、ビジネスマン、特に営業系のビジネスマンの人には貴重はアドバイスのオンパレードである。必読だ!

最後に、この記事ももちろん、この本で紹介されている「職養道」を参考にして書いたものである(笑)

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