「着眼大局、着手小局」で問題を解決する
高橋 浩一「レバレッジ・ポイントを見つけ出せ! 問題発見力養成講座 “木を見て森も見る”システム・シンキング」、日本実業出版社(2009)
お奨め度:★★★★★
日本でのシステム思考のエバンジェリストの一人、高橋浩一さんのシステム思考の書籍が出た。
システム思考をやっている人と話をしていると、他のフレームワークと組み合わせることを嫌う人が多い。そのために、どうしても、教科書的な感じの本が多いのだが、そんな中で、この本は、システム思考と他のフレームワークを組み合わせる提案をしている。その意味で、日本で初めての実践的なシステム思考の本だと言っても良いだろう。
本書で提案しているコンセプトは、「着眼大局、着手小局」。全体像を把握して、課題を発見して、解決策を考え、実行するという考え方だ。これを実践するために、まず、システムシンキングで、全体を眺め、レバレッジポイント(著者は最重要課題と言っている)を発見する。これが小局である。そして、ロジックツリーで小局を複数の小さな課題に分解し、実践していく。これが本書のコンセプト。うまい言葉だ。
このコンセプトを実現するためのツールとして、システムシンキングを解説している。まずは、因果ループ。かなり、具体的に因果ループについて説明している。さらに、時系列パターングラフについても説明している。
次に、因果ループの書き方について詳しく説明されている。特に、変数の探し方などにおいては、著者の経験に基づいくノウハウが惜しげなく紹介されており、非常に実践的である。さらには、一章まるまる、因果ループを書く演習という大胆な構成になっている。
これに対して、時系列パターングラフの作り方の説明はない。これは僕的には、やや不満だが、ビジネスにおける問題解決としてあまり使わないからだろう(本当はこのこと自体がおかしいと思うが)。
ただ、システム思考のメリットの一つはダイナミカルシステムとロジックを同じ枠組みの中で扱えることであるし、エンジニアリングやプロジェクトにおける問題解決では、時系列パターングラフは大変重要なので、そのような分野でシステム思考を使われる人は必要な人は別の本を併読することをお奨めしたい。お奨めはこの本。
西村 行功「システム・シンキング入門」、日本経済新聞社(2004)
次に、具体的な事例を使って、レバレッジポイントの見つけ方を解説している。事例は、精密機械メーカの工場で、間接人員の育成のワークショップにシステム思考を使うというもの。ワークショップの流れとしては、
(1)現状分析をSWOTで行う
(2)「ありたき姿」を因果ループで表現する
(3)レバレッジポイントを特定する
という流れ。そして、ロジックツリーでレバレッジに対する施策を検討し、実施していくということになっている。システム思考がどのように役立つかを知るにはとてもよい事例である。
次の章では、このようなワークショップをどうやってファシリテートするかを、これもまた、たいへん、具体的に説明されている。このファシリテーションは簡単にはできないかもしれないが、どのようにやっていけばよいかはわかる。
そして最後に、経営戦略をシステムシンキングを使って見える化するという事例を紹介している。これまでの流れからすると、蛇足感がなくもないが、これはこれで参考にはなる。
この本は、何か問題を抱えているすべてのビジネスマンに有益な本である。しかし、そこではシステムシンキングだけで何かをしようと限定的に考えない方がよいだろう。この本が教えてくれることは、システムシンキングをいろいろな問題解決手法と組み合わせることによって、より大きな成果を得ることができるということである。
もちろん、その心は「着眼大局、着手小局」である。
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〓【開催概要】〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓
◆“木を見て森も見る”システム・シンキング
-プロジェクト関係者のための俯瞰的論理思考の技術◆7PDU取得可能
日時:2009年05月26日(火) 10:00-17:00
場所:ヴィラフォンテーヌ汐留(東京都港区)
講師:高橋 浩一氏 株式会社コミュニケーション・アンド・リスペクト 代表取締役
詳細・お申込 http://www.pmstyle.biz/smn/systemthinking.htm
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