当事者としてプレゼンする
佐々木 直彦「大人のプレゼン術 自分と相手がワクワクドキドキする10か条」、PHP研究所(2005)
お奨め度:★★★★
2005年7月の出版。一風変わったプレゼンテーションの本。こんなつかみで始まる。
(1)いま、やりたいことをやっていますか?
(2)応援してくれる人はいますか?
(3)毎日楽しいですか?
(4)会議で自分の意見が通りますか?
(5)好きな人と夢を共有できますか?
(6)お客さまとうまくいっていますか?
(7)周囲から一目置かれていますか?
(8)セクシーで論理的なビジュアルを使ってプレゼンできますか?
(9)未来がひらけていくと信じられますか?
これらをすべて「YES」にできる10か条があります。
初めて読んだプレゼンテーションの本は、八幡 紕芦史さんの
八幡 紕芦史「戦略的プレゼンテーションの技術―オープンな意思決定のために」、ダイヤモンド社(2002)
だった。八幡さんはマネジメントコミュニケーションとか、ミーティングマネジメント、戦略思考など多くの分野で、独自の方法を早い時期に発表されている。プレゼンテーションについてもまだ、ほとんど類書がない時期だったので、ひたすら感心しながら読んだのを覚えている。
その後、2004年くらいからプレゼンブームがやってくる。佐々木さんの本もその時期に出版された一冊。
特に印象に残っている本が2冊ある。一冊はマッキンゼーのコンサルタントが書いた
ジーン・ゼラズニー(数江 良一、菅野 誠二、大崎 朋子訳)「マッキンゼー流 プレゼンテーションの技術」、東洋経済新報社(2004)
で、もう一冊はエグゼクティブ向けのプレゼンテーションのコンサルタント、ジェリー・ワイズマンの
ジェリー・ワイズマン「パワー・プレゼンテーション」、ダイヤモンド社(2004)
である。両方とも、相手を説得するための構成の仕方から、シナリオの立て方、資料の作り方まで理路整然とまとめられており、非常に参考になった。ロジカルプレゼンテーションの世界だが、非常にスマートにまとめられており、それが何よりも印象的だった。
また、2005年には、眞木 準さんがクリエイター19人のプレゼンの秘訣をまとめた書籍
眞木 準編「ひとつ上のプレゼン。」、インプレス(2005)
を出版された。こちらはやたらとテクニックを強調している感があって、クリエイターのプレゼンテーションというのはこういうイメージかと感じた。全体的に「うける」ということに重心があるようなものが多いという印象。
この時期に、実は佐々木直彦さんのこの本も読んでいる。が、ほとんど印象に残っていなかった。
「プロデュース能力」で、佐々木さんと出会い、それを契機にこの本を読み直してみた。こういうスタイルがあるのかと思った。戦略(ロジカル)でもないし、説得でもない。また、「うける」ということでもない。不思議なスタイルで、強いて言えば、共感を得る、影響を与える、インフルエンスというスタイルである。サブタイトルにあるように、自分も相手も、ワクワクドキドキするという世界を作るプレゼンだ。
別の言葉でいえば、自分の生き様をぶつけてプレゼンするようなスタイルだといえる。まさに、「プロデュース」の世界でのプレゼン方法だ。
ちなみに、「プロデュース能力」でもプレゼンについて少し触れているが、プロデュースの原点はここなのかと納得してしまう内容。プロデュース能力を読み、触発されて、実施してみようと思った人は必読だ!
さて、10か条の内容をみると、
導入
全体構成(物語)
自分の利益と相手の利益
なぜ、プレゼンするのか
ビジュアル
目の力、心の力
カモデジャビトゲン
ライブ感覚
論理的着地
信念と楽観
という10項目に対して、オリジナリティの高い方法が紹介されている。
仕事柄、プレゼンをする機会も、立ち会う機会も多い。自分がやるときのことは棚に上げていうが、プレゼンに立ち会っていると、説得力の源泉は論理や戦略、ましてや小手先のテクニックではないと思うことが多い。もちろん、これらの方法を駆使するコンサルタントやクリエイターのプロフェッショナルなプレゼンテーションは見事だと思うことが多いが、どこか白々しい。
何が源泉かというと、当事者意識であるように思う。佐々木さんの方法はそんなにエレガントではないと思う。しかし、当事者意識を伝えるにはどうすればよいかという点で非常に勘所が押さえられているように思う。
佐々木さんはもちろん、プレゼンのプロなのだが、この通りにやると、素人っぽさで当事者としての想いを伝わるというなかなか高度なレトリックが生まれるのではないかと思う。ケースバイケースだとは思うが、こういうプレゼンの技術も使えると強力な武器になるのではないかと思わせる本である。
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