人を重んじ、競争力を獲得する
村山 裕三「京都型ビジネス―独創と継続の経営術 (NHKブックス) 」、日本放送出版協会(2008)
お奨め度:★★★★
やっぱり、京都だ!
京都は戦後ベンチャーのメッカである。グローバル展開している企業が多い。日本の中では唯一、東京を向いていない企業である。彼らの多くは、まず、日本で成功し、そのあとでグローバル展開という、日本企業がかかっているグローバル展開できない症候群にかかっていない。これはすごいことだ。
行政的にも新しい。よいか悪いかは別にして、日本では官僚が仕組みを考えて、それを日本全国の自治体に水平展開していく(垂直展開というべきか?)。その中で、情報センターやインキュベーションラボ、試作ネットワークなど、京都が独自に開始し、国策として取り上げられたものがある。
なぜ、こんなことができるのか?この本にその秘密が書かれている。
日本の戦後は人を大切にする経営政策をとって成長してきたと思われがちだ。確かに家族経営といった言葉に代表されるように、同じ釜の飯を食うという感覚を重視し、人を大切にしてきた歴史がある。しかし、そもそも、人と大切にするというのはどういうことか?
その問題に対して、この本が与えている明確な答えは、
人を重んじ、競争力を獲得する
だ。古くて、新しい考え方。
日本企業は人を大切にしてきたが、戦力化してきたかというと、そうでもない。組織力を前面に出すことによって人を使ってきた。滅私奉公的な発想を強いてきた。キャリアマネジメントの発想がでてきたのもこの10年である。
このようなことを考えてこなかったツケは2つある。日本市場でしか活躍できない組織や人を量産してしまったこと。そして、それでも時流にあらがえずいよいよ、グローバル競争に出て行くときに、今までの方法を捨て去り、欧米の経営スキームの合わせ、そして、人を粗末にするという最低の選択をしてしまったことだ。
ところが、このような考え方ができている「地域」がある。京都だ。この本に取り上げられているように、人で競争している企業が実に多い。京都の企業の人と仕事をするのは楽しい。
これが商社や、広告会社ならあまりたいしたことではない。ある意味で、そのようなビジネスである。製造業でこれをやっているところが、京都という地域のすごみだろう。
この本で紹介されているように、Wiiで世界を圧する任天堂、アメーバ経営を発明した京セラ、オムロン、日本企業で唯一のノーベル賞を受賞研究者を輩出した島津製作所、日本電産、村田製作所、堀場製作所、ローム、イシダなど、戦後に成長した多くの企業がそのような経営施策をとっている。背景には、文化の集積と、ビジネスとの融合があるというのが本書の主張。
京都の本で、老舗本は何冊かあるが、以外とこれらの企業を包括的にあつかった本は少ない。一読の価値がある。
併せて読んで見て戴きたいのが、この本。
末松千尋「京様式経営 モジュール化戦略―「ネットワーク外部性」活用の革新モデル」、日本経済新聞社(2002)
この議論を抜きにして、京都のビジネスは語れないと思うし、村山氏の本が指摘する、市場と職人の距離を近くしている背景にもこの議論があるように思える。
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