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2008年12月31日 (水)

日本のこころ

4863100388 茂木 健一郎「クオリア立国論」、ウェッジ(2008)

お薦め度:★★★★1/2

「クオリアとは人間が心の中で感じるさまざまな質感」のことだそうだ。「抜けるような青空、ヴァイオリンの音色など、意識の中であるものとして把握されているものはすべてクオリアであるといっても過言ではない」と著者は説明する。この本は、記号的な消費の時代は終わってクオリアの消費の時代が来たことを背景に、クオリアで立国していこうと主張する。

よく日本的という表現を使うが、じゃあ、それは何といわれると意外と答えにくいものだ。というよりも、これそものがクオリアであり、明確に言語で表現できるようなものではないのではないかという気がする。この本は、この問題に対して、文化とビジネスという2つの視点から切り込み、それらを併せてこれからの日本の核にすることを提案している。

文化の側面からは、おもてなしの文化、おまかせの文化の重要性を述べている。ここでは、リッツカールトンの話、俵屋の話、すきやばし次郎の話など、クオリアを提供しているサービスの例がいくつも出てくる。これらの例を読んだときには微妙な感じを受けた。しかし、ミシュランガイドが高尾山を取り上げられたをクオリアの例としてあげられているので落ちた。

さらに、茶の心で売る自動車セールスマンの話が出てくる。立て板に水を流すように車の説明をするのが優秀なセールスマンではなく、相手の話、趣味とか、子供をどんなところに連れて行ってやりたいかといった話をよく聞く。そのうちに、客の方が車がほしくなってきて買っていくというのは、常に客の傍に控え、先回りしてもてなす亭主の茶の心に通じるものがあるという。おまかせというのは亭主がリードすることではない。あくまでもペースメーカは客であり、そのペースを崩さないように先回りすることだ。日本ではこれが最高のもてなしだとされる。

今年の1月1日の記事に、

おもてなしの源流 日本の伝統にサービスの本質を探る

という本を紹介し、そこで、述べられている主客一体がビジネスの基本であるという話を紹介したが、おまかせというのは主客一体の実現方法である。

ビジネスからの視点では、もっとも特徴的な話は2つある。ひとつはコンビニの話。コンビニでそのきれいさに感心した経験のある人は少なくないと思うが、整然とした陳列、ぴかぴかの磨かれた床などは欧米にはまねのできないもので、わびさびに通じるクオリアだという。これがひとつ。もうひとつは、あいまいさ。

トヨタとノーベル賞とサブタイトルのついた本にも書かれているが、iPodの成功を欧米人はジョブスの作った商品だと考える。日本人は「いろいろな人のアイディアがあってiPod」という商品ができたと考える。この違いがノーベル賞を目指すか、トヨタを目指すかという違いだという。

この話は極めて興味深い。日本人の考え方が間違っているとは思えない。最近、祖先帰りが議論され始めているが、小泉純一郎が総理大臣だった頃に盛んに議論されていたアカウンタビリティとレスポンシビリティですべてを片付けようといういろいろな識者の考え方は合理性があるとは思うが、薄っぺらな議論だと感じることが多かった。この議論は個におく前提の問題である。

個は「自分の担当」だけをやっておけばよいと考えればそれでこの考え方は100%正しい。プロジェクトマネジメントなどはまさにこの世界だ。しかし、本書でも指摘しているように日本の強みは、そうではないところにあった。たとえば、出張中の課長宛に電話がかかってくる。それを課員が一旦受けて、何らかの判断や対応の後に、日次報告するのが日本流だというのだ。

今年はかけなかったが、「ほぼ日 読書日記」で7つの習慣のコビーのジュニアが執筆した

スティーブン M.R.コヴィー、レベッカ R.メリル「スピード・オブ・トラスト―「信頼」がスピードを上げ、コストを下げ、組織の影響力を最大化する」、キングベアー出版(2008)
4906638740 

という本が翻訳された。ここに書かれていることの多くはもともと日本人ができていたことである。それが欧米化してできなくなっている。

このような問題に対して日本人はよく「欧米では通用しない」という。これは正しいと思う。たとえば、トヨタをこれだけ神格化したのはトヨタ自身でも、日本人でもなく、ミシガン大学経営工学部教授のジェフリー・ライカー氏の「トヨタウェイ」である。
https://mat.lekumo.biz/books/2005/11/post_a0dd.html

要するに日本人は形式化が下手なのだ。トヨタのような比較的、形式化されたマネジメントでも難しいと考えていた。欧米人はこれを、「ウェイ」や「マインド」で伝えてしまうのだ。

しかし、それは日本人が満足できるレベルのものではないようだ。トヨタの部長さんから聞いたのだが、「ライカーさんの本は本質を描いていない」そうだ。

このようなハンディーがあって、日本人は自らの方法をグローバル標準にすることを諦めている気配がある。しかし、クオリアというのは脳科学の世界ではグローバルな概念だ(茂木氏によると受け止め方が違うそうだが、概念はある)。この概念こそ、日本の独自のやり方をグローバルなやり方として普及させ、また、競争力にしていく道ではないかと思う。

来年は、プロデュースに注目していきたいと思っているが、プロデュースと同時にクオリアという概念も要注目である!もちろん、おもてなし、ホスピタリティも!

来年もよろしくお願いします。

【目次】
第1章 クオリア消費時代がはじまる(美意識が消費財になる時代)
第2章 文化力を発信する(おもてなしの心をみがく最高の瞬間を逆算する日本人―“御用聞き”がウケる)
第3章 ビジネスとクオリアの交差点(衆知を集めて独創を生む日本ブランドはもっと高められる)
第4章 クオリア立国のために(日本文化が強さに変わるとき日本の「見える化」を目指せ)

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