サムスンのプロフェッショナルなマネジメント論
チョン・オクピョウ(蓮池薫訳)「韓国最強企業サムスンの22の成功習慣」、阪急コミュニケーションズ(2008)
お薦め度:★★★★★
サムスンの伝説のマーケッタとして知られる、チョン・オクピョウがサムスン流の勝つ企業への変身の秘訣を6章22項目にまとめた本。ひとつひとつが非常に濃い内容で、サムスンの急成長が納得できる。また、蓮池薫さんが翻訳をしているが、翻訳の質が極めて高く、書かれている内容がどんどん吸収できるような感じになる。
まず、22の習慣を見てみよう。
勝つ習慣1 客のために動く「動詞型組織」に変身しろ
勝つ習慣2 勝つ組織は情熱の温度が違う。仕事をお祭りに変えろ
勝つ習慣3 時間という無秩序な流れに自分をゆだねるな
勝つ習慣4 苦痛を伴う創造的な革新に、喜んで自分の死活をかけろ
勝つ習慣5 人生もビジネスもセルフマーケッティングだ
勝つ習慣6 この世にないことを行え。企画書1枚書いても、他と差別化しろ
勝つ習慣7 あなたが勉強する学校は、まさに今のここだ
勝つ習慣8 組織が従業員に与えられる最高の恵みは「厳しい訓練」だ
勝つ習慣9 プロセスを定着させて、組織の力をアップさせよう
勝つ習慣10 目標は遠大なものに、評価は冷徹に
勝つ習慣11 ディテールの力。1ミリずつ分けて観察しろ
勝つ習慣12 失敗は最高の教科書。「失敗ノート」を共有して学べ
勝つ習慣13 すべての従業員がマーケッティング戦略の鬼になれ
勝つ習慣14 お金は一番低いところに流れ込む。現場で答えを探せ
勝つ習慣15 客より有能なマーケット専門家はいない。客の寝言に耳を傾けろ
勝つ習慣16 CRMはソフトウェアではなく習慣だ
勝つ習慣17 挨拶もろくにできない組織は「墓場」と同じ
勝つ習慣18 資本のいらない投資。笑みが金を呼ぶ
勝つ習慣19 戦略によって1日をスタートさせ、確実な仕上げでゴールの決定力を高めろ
勝つ習慣20 基礎のない才能は寿命が短い。誠実さを堅持しろ
勝つ習慣21 よくできる人をひたすら模倣するのも優れた戦略だ
勝つ習慣22 執拗にこだわる者が最後に大事をなす
の22である。全般的な感想としては、とにかく、メリハリがあり、プロ意識を高めることに集中している。また、アメリカ流でもないし、かといって日本流でもない。まさにサムスン流である。特に共感したのは、
勝つ習慣1 客のために動く「動詞型組織」に変身しろ
勝つ習慣3 時間という無秩序な流れに自分をゆだねるな
勝つ習慣19 戦略によって1日をスタートさせ、確実な仕上げでゴールの決定力を高めろ
の3つの習慣。いずれも日本にかけているところで、かつ、重要だと思われる。
同時に感じたことは、実践的(プラクティカル)であること。サムスンは株価の時価総額でソニーの倍以上あるが、よく耳にするのはキャッチアップ戦略をとって大きくなった企業がこのあとどうするのだろうかという評価。日本で目にするソニーの商品とサムスンの商品を比較すると、この評価は当たっているように思えるが、一方で、42インチの液晶テレビを5万円で供給できるというのは、単なる模倣、低価格の戦略を超えているようにも思える。その秘訣が、組織の実践性にあることが良く分かる。
徹底的に行動を追い求めている。特に、顧客行動の中からイノベーションが生まれると信じている。この姿勢が常識を超えるような低価格戦略を生み出している。
ということは、ソニーのような技術開発戦略に舵を切れば、トンでもないイノベーションを生み出すのではないかという期待が持てる。実際に、22の習慣の随所に、ソニーの祖である井深大やホンダの祖である本田宗一郎氏などの思想が組み込まれているようにみえる。これは古いだろうか、新しいのだろうか?
間違いなくいえることはプロフェッショナルのマネジメント論であるということだ。
この本を読むときには、細部に最新の注意を払って読んでほしい。流し読みをすると、日本のそれなりの企業ではうちはやっているとなると思う。しかし、細部をきちんと読むと、日本企業の取り組みとは質が違うことに気づかされる。ここに日本企業が再構築しなくてはならないものがあるように思う。
【目次】
第1章 弾丸のように動く―動詞型組織
第2章 創造的な苦痛を楽しむ―プロの士官学校
第3章 細分化し、分析し、構造化する―徹底したプロセス
第4章 マーケッティングにすべてを賭ける―マーケッティング的思考の体得
第5章 基本を忘れるな―規範のある組織文化
第6章 最後まで手放さない―執拗な実行力
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