不合理が競争力を生み出す
ポール・レンバーグ(山崎康司訳)「会社を変える 不合理のマネジメント―1.5流から超一流への発想転換」、ダイヤモンド社(2008)
お奨め度:★★★★★
型に始まり、型を破る
マネジメントには常識がある。しかし、常識にとらわれている限り、平均的な成果を超える成果を挙げることはままならない。この本は、型の破り方を「体系的」に教えてくれる。
この本は起業家向けのコーチングを行っている著者が書いた本なのだが、最初に読んだときには、その思い込みが強かったせいか、面白いとは思ったが、そんなにすばらしい本だと思わなかった。こんな感じの本かなと思っていた。
柳澤 大輔「この「社則」、効果あり。」、祥伝社(2008)
この本を紹介するためにもう一度、読み直してみたら、実にすばらしい本である。何がすばらしいかというと、体系的なアプローチをしていること。これなら、大企業のマネジメントのシステムにもなりうるし、もちろん、その中の組織をマネジメントするシステムにも十分になる。
この本のテーマは、「不合理(Unreadonable)」。つまり、合理性のあるやり方というのは、過去の経験や成功体験の範囲で認知されるものである。たとえば、ムダをなくせとか、コストセーブしろとか、ルールを守るとかいうのは、過去に照らし合わせたときに、合理的だと判断できるものである。
ところが市場や環境が大きく変わっている中で、そのような合理的な判断だけでは生き延びるのが難しく、ブレークスルーが必要である。ブレークスルーを引き起こすためには、合理性や常識を無視したというよりも、あえて不合理、非常識な発想や行動をとる必要があるというのが、本書の趣旨。
まず、最初に人はどうして、合理的なところにとどまろうとするのかを分析し、その結論を快適さだとしている。また、非合理であることと、「非現実的」であることは違うことを説明している。そして、ジョージ・バーナードの「常識的な人は自分自身を世の中に適合させようとする。一方、不合理な人は世の中を自分に適合させようとする」という言葉を紹介し、不合理であることがもっとも「理にかなっている」と主張する。
ここまでのイントロはある話だが、この本の真骨頂はこの後の展開。
不合理な戦略 → 不合理な考え → 不合理な戦術 → 不合理な実行
という順序で、如何に戦略、戦術、実行を不合理にするかを具体的な例をあげながら、述べている。この中で、ポイントになるのは、実行。
この本を読んでみて気づいたのだが、合理性や常識というのは戦略と戦術、そして、何よりも実行の間の整合性があって始めてもたらされる。ところが、実際には、戦略と実行は切れており、合理的な戦略には、不合理な実行を伴うことが多い。そして、その不整合を調整するために戦術があり、そこに工夫をしていくということが多い。
トップダウンの経営というのはそういうものだ。ところが、現場側から考えてみると、現場が合理性を持つには、戦略は不合理なものであることが求められるケースが少なくない。バーナードの言葉がそれを如実に物語っている。
そのように考えると、経営の実行力を高めるには、「理にかなっている」やり方をすることが重要であり、それは現在の常識の外にあることが多いのではないかと思われる。不合理な戦略経営を体系的に行う方法、つまり、従来のマネジメントの型を破る方法が詳しく書かれており、非常に参考になる本である。特に、経営と実行の連結ピンであり、戦術的な工夫をしているミドルマネジャーには非常に参考になるのではないかと思う。
この点も含めて、非常に学ぶべきことが多い本であり、シニア、ミドル、リーダーにぜひ読んでほしい一冊である。
【目次】
不合理のすすめ
不合理であることは、
「並外れた結果を得るために必須のことである」
「旧態依然の知恵を無視することである」
「最後までやり通すことである」
「求められる以上のことを行うことである」
「妥協を受け入れないことである」
「ひたすら偉大な物事の可能性に向けて行動することである」
「常に最善を予期することである」
「規範や慣習を逸脱することに対し責任を感じないことである」
「結果に対し完全な責任を負うことである」
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