イノベーションが必須とされる競争社会で生き残るためのチーム
デボラ・アンコナ、ヘンリック・ブレスマン(サイコム・インターナショナル監訳、西田 忠康、鈴木 立哉「Xチーム」、ファーストプレス(2008)
お薦め度:★★★★★
新しいチーム概念である、「Xチーム」を定義し、Xチームにおけるチームマネジメントやプロジェクトマネジメントについて体系的に述べた1冊。
Xチームとは、外部をチームに巻き込んで、複雑な問題を解決し、状況の変化に対応し、イノベーションを起こし、競争優位を獲得することを目指すチームで、このために、リーダーシップを現場に分散したチームである。
Xチームは
(1)外部活動
(2)超効率的執行
(3)柔軟なフェーズ転換
の3つの特徴(原則)があり、その点において従来の内部指向型のチームとは一線を画すものである。このために、本書ではXファクターと呼んでいる要素が必要である
Xファクター1:社会性
Xファクター2:多層性
Xファクター3:交換可能性
本書でXチームの説明のために取り上げられている事例は、マイクロソフトの「ネット世代」チームである。マイクロソフトのビジネスは、ネット世代(13歳~24歳)には向かないのではないかという疑問を持っていた。そこで、この分野でのビジネスマネジャーであるタミー・サバジは小さなチームを立ち上げ、学生を集めて事業プランの作成を依頼した。そして、その中で学生たちが共同作業をする中で、テクノロジーをどのように使うかを観察し、「3°」の開発に取り組んだ。そして、ネット世代に新たなスペースと新メンバーを提供し、メンバーは専門知識を提供してくれそうな人と連絡を取り、多くの人の知恵を借りながら「3°」の開発をし、MSメッセンジャーに移植したという話である。
監訳者がこの本は米国のサイロ的なチームに対して警鐘をならすものであり、企業全体がチームになっているような日本の企業では必要ないと思うのは早計であるとまえがきに書いているが、その通りだと思う。この本を読んでまず最初に思ったのは、日本的なチームの在り方への警鐘ではないかということだ。確かに日本企業のチームは外部性があり、現場にリーダーシップをおいて、外部を巻き込んだ運用をしているケースが多い。
が、これは実はこのような動きでXチームを作れている例はまれである。たとえば、お菓子メーカーが上にでてきた「ネット世代」プロジェクトのような形で商品開発をしたり、大学を巻き込んで商品開発をしている例はあるが、ほとんどの場合、ユーザとしてしか見ていない。したがって、外部から商品に対して本質的なイノベーションを得ようとは思っていない。プロジェクトチームから見た外部とは社内であり、社外は別の話になっている。つまり、3つのXファクターを満たしているとは言い難い。むしろ、似て非なるものになっている。
その意味で、今のチームマネジメントで、本書がいま、企業が抱えているとする
(1)利益を得るために積極的にリスクを取る
(2)複雑で、専門的で、動的で、分散的になっている重要な知識を追跡し、身につけて行動する
(3)複雑化し、独立的で、変化のスピードが速くなっているさまざまな作業を調整し、シナジーを生み出す
の3つの課題に対処することはできないだろう。
その意味で、今のチームマネジメントは今のチームマネジメントとして、もう一度、リーダーシップの分散を徹底したチームの在り方について考えてみる必要があるが、本書はそのために大変筋のよいコンセプトと具体的な検討の切り口を与えてくれる。
本書の第2部は、Xチームの3つの原則をどのように実現していくかを詳しく述べている。さらに、Xチームの支援をどのように行うかを説明している。まだ、第3部ではXチームを作るための方法としてツール、インフラ、リーダーシップの在り方について述べている。
本書はトップマネジメントに向けた書き方をしているが、実現には組織のすべてのレベルのマネジャーの理解が必要であり、特に現場とのインタフェースになるミドルマネジャーの役割が重要である。その意味で、ミドルマネジャーに読んでもらい、トップマネジメントに勧めてほしい1冊である。
【目次】
目次
序章:優れたチームに不幸が訪れるとき
Xチームとは
Xチームの3つの特徴
Xファクター:Xチームに欠かせない3つの要素
新しい世界に対応できるXチーム
だれが本書を読むべきか
研究方法
本書について
優れたチームはなぜ失敗するのか(第1部)
何が効くのか(第2部)
効果的なXチームのつくり方(第3部)
第1部 優れたチームはなぜ失敗するのか
第1章 下方スパイラルの深みへ:古いモデルが失敗に結びつく理由
中途半端に終わったチーム
2つのチームの物語
2つのチーム、2つの戦略
崩壊への悪循環
チームは過ちを犯すもの?
第2章 変貌する世界:新たな組織と新たなチーム
新しい秩序
厳格な組織から緩やかな結びつきへ
ファーマコ社のチーム「フォックス」
知識という「島」
知識構造の変化がもたらしたもの
任務領域の拡大
分散型リーダーシップの必要性
第2部 何が効くのか
第3章 Xチームの第1原則:外部活動
外部活動1:偵察
組織内におけるチームの領域を把握する
顧客、競合、現在のトレンドをとことん調べる
代理学習
偵察のしすぎに注意する
外部活動2:外交
戦略的取り組みへの合致と初期段階での支持の確保
チームやメンバーのアイデアを売り込む
仲間を増やし、敵を取り込む
外交的行動に対する注意点
外部活動3:タスク調整
タスク調整1:頼りになる相手の見きわめ
タスク調整2:フィードバックの獲得
タスク調整3:説得、交渉、懐柔
第4章 Xチームの第2原則:超効率的執行
超効率的執行を担保するチーム内の「安全な文化」
心理的な安心感
自省的姿勢
他人の知識を知る
超効率的執行のツール
統合ミーティング
参加型で透明な意思決定手順
チームとしての大原則
期限の共有
情報管理システム
第5章 Xチームの第3原則:柔軟なフェーズ転換
焦点の異なる3つのフェーズ
分散型リーダーシップ実践において重要な4つの能力
フェーズ1:探索
フェーズ2:開拓
フェーズ3:搬出
第6章 Xファクター:Xチームの支援構造
最初の段階:探索
Xファクター1:社会性
Xファクター2:多層性
Xファクター3:交換可能性
夢を形に:開拓
Xファクターと開拓
マイクロソフトへの再統合:搬出
Xファクターと搬出
第3部 効果的なXチームのつくり方
第7章 Xチームのツール:理論から行動へ
ステップ1:メンバーの選定と準備
メンバーの選定と準備段階での主要作業
ステップ2:探索の開始
探索活動のための主要タスク
ステップ3:開拓への取り組み
開拓活動の主要タスク
ステップ4:搬出によるプロジェクトの完遂
搬出のための主要タスク
第8章 イノベーションのためのインフラづくり:Xチーム組成プログラム
BPのXチーム組成プログラム
メリルリンチのXチーム組成プログラム
Xチーム組成プログラムをつくる:トップマネジメントにとっての必要性と方法
Xチーム組成にあたっての5つの成功要因
成功要因1:トップからの全面的支援
成功要因2:万全な準備体制
成功要因3:プロセスに関する厳格な枠組み
成功要因4:支援とフィードバックの仕組み
成功要因5:明確な終焉
第9章 Xチーム:分散型リーダーシップの実践
あらゆる階層でのリーダーシップ
分散型リーダーシップの4つのコア能力
Xチームと分散型リーダーシップ
トップマネジメントの役割:Xチーム組成のための社内文化づくり
活動1:戦略的方向性の提供
活動2:社員のオーバーワークの回避、管理そして激励
活動3:「両刀使い」を可能にしておく
活動4:ネットワークを促進する
活動5:一時的なリーダーシップを実践する
活動6:ロールモデルになれ
Xチーム:決して容易ではないが、十分な見返りのある選択
コメント