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2008年9月 4日 (木)

「考え抜くマネジメント」の生きた教科書

4784826335 松本 俊人「地域密着型空間プロデュース企業のビジネスストーリー―創業15年で株式公開をめざす元気社長の経営戦略」、週刊住宅新聞社(2008)

お薦め度:★★★★

創業し、戦略的な事業をやるというのがどういうことかを、経営者自らの経験を分析し、徹底的に教えてくれる好書。

縁もゆかりもない土地で、不動産企業の勤務経験がある著者が、独立し、株式会社アズ企画設計を立ち上げ、賃貸事業をコアにして事業拡大をしていく様子やその意思決定プロセスを明確にしながら、描いている。その点で、本書は単に創業のハウツー本を越えて、戦略経営の教科書にもなる。

最大の戦略はタイトルにもある地域密着である。本書はまず、なぜ、地域密着という戦略をとったかという話から始まる。その理由とは、地域で成功している企業に注目してみると、必ず、地域に対して盛んに情報発信をし、積極的に地域にかかわっている点にあるということへの気づきだった。

地域密着をぶれない軸とし、目標企業を見つけ、ビジョニングをし、経営理念を作る。アズ企画設計の経営理念は社員の「心の道案内」になるようにとのことで、行動規範に近いものになっている。感謝・自由・迅速・柔軟・使命感の5つである。

次の章では、ターゲッティングについて述べられている。事業ターゲットとして賃貸を選んだ理由から始まり、ビジネスチャンスのつかみ方、クレーム対応による顧客満足、システム化を中心にした営業戦略、そして、最大のポイントである情報発信など、ポイントに戦略について幅広く述べているのだが、現場の注意深い観察から非常に論理的に戦略が組み立てられており、それゆえに、地に足のついた戦略になっている。こういうやり方は多くの創業企業が見習いたい部分である。

第3章では、地域密着型を基本戦略にした賃貸事業の展開について詳しく述べられている。ここでも事業を組み立てていくプロセスの意思決定が述べられており、その展開は不動産業ならずとも参考になるだろう。さらに、4章では、空間再生事業という事業コンセプトを定義し、それに基づいて、コンテナ業務を展開していったときの苦労が述べらている。熟考した事業コンセプトを明確に作って事業を展開しているのは、比較的珍しいのではないかと思う。というよりも、戦略とコンセプトの区別がつかない企業が多い。この点でも卓越した経営がうかがえる。

次の章は社会的責任の芽生えのテーマに書かれており、その結果として始まったのがリフォーム営業だという。

6章以降は、著者の経営の基本的な考えをまとめている。まずは情報力が基本であること。次に人材が勝負であり、如何に人材を集めるかについて。さらには、資金調達の方法や情報化について。いずれも、創業期の企業においては生命線である。独特のやり方という感じでもないのだが、かといって教科書的でもない。考え抜いたマネジメントというのはそういうものだと思うが、その意味で、非常に筋のよい経営を学べる本である。

不動産業経営者が書いた不動産業経営の話なのだが、どの業界でも通用する話ばかりである。不動産という業界はユーザとしてはほとんどの人がかかわりのある業界であり、そこで書かれた経営のプロセスは多くの人に参考になるだろう。

あらゆる分野での創業、中堅くらいまでの企業の戦略経営に関心を持つ人にはぜひ、読んでほしい一冊である。

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