幸之助は過去か、未来か
江口克彦「成功は小さい努力の積み重ね」、PHP研究所(2008)
お薦め度:★★★★1/2
ある出版社の編集者の方が「ビジネス&経営実務書の企画をするときに、松下幸之助の言葉をブレークダウンする」と言われていた。松下幸之助の経営哲学を伝え、発展させるために研究所を作ったのだから、このような形はあってしかるべきなのだろう。
一方で、松下電器の近年の課題は、いかに幸之助の経営を乗り越えるかであり、ついに、社名から松下の文字を外した。外から見ている分には、もはや、幸之助は過去の人になった感もある。
さて、幸之助の考えを紹介した本は数え切れなくくらいあるが、松下幸之助の傍らで23年間にわたり薫陶を受け続け、PHP総合研究所の社長まで務めた江口克彦さんの一冊ということで、注目の本。
・成功者の条件
・自分を磨く方法
・人の心を動かす鉄則
・指導者の条件
という4つの視点から幸之助哲学を言葉を引用しながら整理している。
成功者の条件では
・感謝の気持ちと謙虚な心が人を成功に導く
・多くの知恵を融合調和すれば成功につながる道が見つかる
といったポイントを取り上げている。自分を磨く方法では、
・叱ってくれる人がいれば油断や隙は生まれない
・人間は誰もが偉大な存在である
などを取り上げている。人の心を動かす鉄則では
・互いに声をかけ、助け合い、認め合うことが成功につながる
・「愛嬌のある人」に生きた情報が集まってくる
など、指導者の条件では
・いい物を安くたくさん作るのが生産者の使命である
・経営者は心を許して遊んではいけない
などを取り上げている。
改めてこの本を読んでみて感じるのは、幸之助哲学は、過去のものではないということだ。幸之助哲学の本質は人間臭さにある。人間としての社員、人間としての管理者、人間としての消費者が根底にある。
この本にも取り上げられており、「水道哲学」を表する言葉に、
安くて良いということはいかなる商売においても最高の決定権を持つ
という言葉がある。ものがあふれている時代にこれを古いとみなす人もいる。しかし、幸之助は良いものの中に環境の問題を語っている。決して古い考えではなく、未来だ。
もうひとつ、有名な言葉を紹介しておこう。
世の中には変わってはならないもの、変えてはならないものがある。そして、一方で日進月歩で変化している。両者が適切に存在しなければならない。
マネジメントでは、従来の日本の経営パラダイムを否定し、新しい考え方を取り入れるのもいいが、「適切」というキーワードの意味をもう一度、考え直してみる必要があるのではないだろうか?
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【目次】
第1章 松下幸之助哲学が教える成功者の条件
第2章 松下幸之助哲学が教える自分を磨く方法
第3章 松下幸之助哲学が教える人の心を動かす鉄則
第4章 松下幸之助哲学が教える指導者の条件
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