線と面
袖川芳之「線と面の思考術 自分の頭で考える道具を手に入れよう」、大和書房(2008)
お薦め度:★★★★★
「点と線」といえば、松本清張氏の初めての長編小説。書かれたのは1957年である。松本清張氏の代表作というよりも、日本の推理小説の最高傑作にひとつだ。昨年は、50周年だったわけだが、テレビ朝日の50周年の事業としてビートたけしの主演で初めてドラマ化され、話題になった。
「ビートたけし×松本清張 点と線」、ジェネオン エンタテインメント(2008)
「点と線」は点ではなく、線に注目することによって、事件を解決する推理小説。今となってはよくあるトリックだが、当時は画期的な発想の転換だったことは想像に難くない。
さて、同じように、ガ~ンという衝撃を与えてくれる本。「点と線」ならぬ、「線と面」。飛躍的な思考を実現するために、線の思考と面の思考を使い分ける重要性を指摘している一冊。
著者のいう「線の思考」とは、論理的な思考で、客観性があり、他人と容易に共有できる思考の原理。「面の思考」とは感性的な思考で、主観的で個別性の高い思考の原理。キーワードは「分ける」。分けることができるのが線で、分けることができないのが面。
いくつか例が挙げられているが、たとえば、料理の本で、線の思考はレシピ、面の思考はできあがり写真。
さらに次の章では、人間の思考にはクセがあるということで、自身のクセを把握するための7つのチェックリストがある。ひとつだけ紹介しよう。
A.計画は原則が決まっていれば行動できる(面)
B.細かいことまで決めてから行動する(線)
つぎに、線の思考と面の思考を組み合わせて、ひらめいたことをアイディアに変える方法を解説している。これで、ワンパターンの思考から脱却しようというわけだ。以下のようなステップ。
ステップ1:面の思考で思い込みを打ち破るアイディアを出す
ステップ2:線の思考でアイディア構造化する
ステップ3:面の思考で納得感を持つ
ステップ4:線の思考で他人とアイディアを共有する
この4つのステップの進め方について、実践的できるレベルで詳しく解説されている。この説明を線の思考と面の思考を組み合わせて、読者が納得できるように書かれているのはさすがというところ。
次の章では、今度はコミュニケーションに応用する方法を解説している。僕には非常に参考になった。大雑把にいえば人に伝わりにくいのは線の思考に偏っているためだということで、いくつかの問題に、いかに面の思考を取り入れて改善するかを述べている。この本の書き方を観察すると、この方法は非常に納得できる。
一番、最後には、線と面の思考を読書に応用する方法を述べている。
わたくしごとであるが、春から松岡正剛氏の編集学校の「守」のコースを受講し、先日、無事、終わった。この本に書かれれている線と面の思考は、編集学校で教えている編集方法と本質的に同じであるので、さまざまなものの編集にも応用できるのではないかと思う。
この本を読んで、もう一度、取り出した本がある。西村行功さんのこの本。
西村行功「知りたいことは「面」に聞け!―分析力と表現力を強化する思考法:面発想」、日本経済新聞社(2008)
こちらは面発想という考え方をまとめた本。
面発想は、2つの変数を組み合わせて「掛け算」型で考え、面積に意味を持たせたグラフを描くことで、分析結果から、線では出てこないメッセージを抽出するという方法。
この本だけを読むと、とくにコンサルタントは当たり前だと思うのではないかと思う(僕もそう思った)。しかし、袖川芳之さんの本と読み合わせてみると、西村行功さんが言われていることにももう少し含意があるように思えた。併せて読んでみるとよいだろう。
【目次】
第1章 世の中は2つの思考でできている―「線の思考」と「面の思考」(退屈知らずの人生を歩むために;脳は現実を2通りに捉える);
第2章 自分の思考パターンを捉え直す―偏りに気づく7つのチェックリスト(人の思考はどちらかに偏っている;ロジカル・シンキングには限界がある);
第3章 自分の頭で考える道具を手に入れる―ひらめきをアイデアに変える4ステップ(ゼロから考えるための土台づくり;4つのステップで思考の精度を高める);
第4章 他人にわかりやすい伝え方を身につける―線と面のコミュニケーション術(なぜ、自分の考えはなかなか人に伝わらないのか);
第5章 読書レベルを上げて独学力をつける―線と面の読書術(自分を超える本の読み方;6つの読書術で自分の考えを整理しよう;読書ノート+3ノートで、読んだものを自分のものにする)
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