コンサルティング業界の歩き方
神川 貴実彦編著「コンサルティングの基本」、日本実業出版社(2008)
お薦め度:★★★★
1冊でコンサルティング業界とコンサルタント、そしてコンサルティングプロジェクトの進め方をまとめたハンドブック。
まず、第1章では、コンサルティングを仕事として見た場合に、どのような流れで進めているかを解説している。また、コンサルタントにどのようなスキルが必要かもポートフォリオ的に書かれている。さらに、ファームの特徴とともに、ファームごとに異なるキャリア制度についても述べている。
第2章は業界研究で、どのようなファームがどのような領域を手掛け、どのような特徴を持っているか、そして、どのように変遷をしているかをかなり詳しく述べている。コンサルティング業界への就職を考えている人はもちろんだが、クライアントにとってもある程度参考になるだろう。
第3章、第4章では、コンサルティングを「戦略」「IT・業務」「組織人事」「内部統制」、「M&A」などに分け、それぞれのコンサルティングプロジェクトの進め方をかなり丁寧に説明している。
最後の5章ではコンサルティング業界への就職をしたい人、コンサルティング業界での会社を変わりたい人へのアドバイス集になっている。
コンサルタントを目指す人には、のどから手が出るくらい欲しかった本だろう。そのような目的を持つ人には超A級くらいのガイドブックだと思う。コンサルティング業界専門のキャリアサポートをしており、内部事情に通じている会社が、おそらく事業展開の中で作った本だと思うが業界やコンサルタントへの愛情を感じる一冊である。
コンサルティングファームの能力は、ノウハウのアセット化で決まる。その意味で、いったん、ファームに入ってしまえば、コンサルティングのノウハウはファームのアセットでかなりカバーされる。
僕自身、仕事がら、ファームに務める人と多くの接点がある。その中で(特に一緒にしていて)感じることは、彼らの価値はファームのアセットの価値である。その意味で、この本は自分のやりたいコンサルティングをするには、どのファームを選べばよいかということが分かる点で大変価値がある。
しかし、キャリアをみた場合にそれでいいのかという疑問はある。この本の最後に、米国の大手ファーム出身者の華麗なキャリアが紹介されているが、企業の経営者になるのであればそれでいいと思う。しかし、ファームで箔を付けて、独立してコンサルタントになりたい人はもう少し、若い時期にコンサルティングについて基本をしっかりと学んでおくことが必要だと思う。やはり、コンサルティングファームの仕事はよくも悪くもチームプレイなのだ。ファームの経験で学んだことだけで、独立したコンサルタントとしてやっていくのは難しいと思う。
そのようなキャリアプランを持つ人にはミラン・クーバーのこの本をお薦めしておきたい。
ミラン・クーバー、ILO編(水谷 栄二、トーマツコンサルティング訳)「経営コンサルティング 第4版」、生産性出版(2004)
この本は1986年に国際労働事務局(ILO)がまとめた経営コンサルティングのガイドで、実務の入門書として、世界中のビジネススクール、コンサルタント育成機関などで活用されている経営コンサルティングのバイブルになっている。体系性や視点の豊富さ(クライアントとファーム)、プラクティスの多さなど、他に並ぶものがない一冊であり、コンサルタントを目指すのであれば、1冊持っておいて損はない。
【目次】
第1章 コンサルティング業界の基礎知識(そもそもコンサルティングとは?―コンサルティング=経営コンサルティング≠コンサルティング営業;コンサルティングファームの8大機能・付加価値―クライアントの要請に応じて多岐にわたる ほか)
第2章 各コンサルティングファーム・領域の解説(垣根がなくなりつつあるコンサルティング領域―各コンサルティングファームは領域を広げ、分類しにくくなっている;コンサルティングテーマ(領域)を俯瞰する―全社戦略から個別のテーマまで多岐にわたる ほか)
第3章 戦略/業務&ITコンサルティングプロジェクト(プロジェクトの受注から終了までの仕事の流れ―コンサルティング内容は多岐にわたるがフローは決まっている;全社戦略:「選択と集中」を支援するグループマネジメント―多くの事業を展開している企業においてグループマネジメントは重要 ほか)
第4章 組織人事/内部統制/M&A/その他コンサルティングプロジェクト(組織人事プロジェクト:人事コンサルティングの新潮流SHRM―組織と人に最大限のパフォーマンスを発揮させる;組織人事プロジェクト:社員の力を最大限に引き出す組織開発―組織開発は新しい時代のコンサルティングテーマ ほか)
第5章 コンサルティング業界へ就職・転職するノウハウ(“War for Talent”なコンサルティング業界―各コンサルティングファームは精力的に採用活動を行なっている;コンサルタントに求められる資質―論理的なだけではコンサルタントにはなれない ほか)
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