トヨタはなぜ、毎年、1千万台近い車を売れるのか
石坂芳男「トヨタ販売方式」、あさ出版(2008)
お薦め度:★★★★★
トヨタという企業は注目されている割には、製造の話しか注目されない。製品開発プロセスが何冊か本があるが、生産管理については控え目に見ての100冊以上の本が出版されていることと比較すると、ないに等しいだろう。そして、もっとないのが、販売について書いた本である。
自動車業界がよい車を作るだけで世界一の企業になれるような甘っちょろい世界ではないというのはすぐに分かる。日本国内でみても、トヨタに匹敵するくらいよい車を作っているメーカもあるし、世界に目を向ければいうまでもない。販売にも何かすごいものがあると考えるのが普通だろう。事実、販売のトヨタという言葉もある。
ところが、トヨタのディーラーがそんなに他者のディーラーと比べて特徴があるかというとそうでもないように見える。不思議だ。
そんな感覚を持っている人は少なくないのではと思う。そんな疑問に答える本がやっと出てきた。トヨタの海外マーケティングの仕組みを作り上げ、米国市場でのトヨタのポジションを確固たるものにした石坂芳男元副社長が書いた本。
販売で特徴的な点は以下の二つだと思われる。
・トヨタウエイが踏襲されている
・仕組みだけではなく、仕掛けが重視されている
トヨタウェイについては体系的にまとめられた書籍があるので、改めて説明しない。たとえば、この記事を見てほしい。
この本の価値は、二番目にある。この本では仕組みと仕掛けとして
・シルバーブック
・オフサイトミーティング
・ベストプラクティスブリテイン
・グローバルナレッジセンター
・タウンホールミーティング
・ディーラーカウンシル
といったものが取り上げられている。一つ一つの仕組みや仕掛けがトヨタウエイの実践だとも言えるし、また、これらはシステム的に機能し、その運営でトヨタウエイの浸透に貢献している。
この中でもっとも本質的な話は、ベストプラクティスブリテインを公開しているということだと思われる。社内でも議論があったらしいが、結局、公開に踏み切った。その理由は、公開しても他社には真似ができないだろうという判断だったという。生産管理方式を惜しげもなく世の中に公開しているのと同じ理屈だ。
なぜ、できないかということを知るには、かなり想像力を働かせながら読み進めていく必要があるが、ぜひ、そんな読み方をしてほしい一冊である。
営業職にももちろん役に立つのだが、差別性のあるプロセスを作るにはどうしたらよいかということを考える立場にある人にぜひ読んでほしい本だ。
【目次】
第1章 〈販売〉の英知を集めたシルバーブック
第2章 仕組みづくりで〈販売〉を強くする
第3章 レクサスはなぜ成功したのか?
第4章 〈販売〉が大切にしている心がけ
第5章 トヨタウェイの今日までと明日
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