ITスキル標準はITエンジニアを幸せにするか?
高橋秀典「ITエンジニアのための【ITSS V2】がわかる本」、翔泳社(2006)
お奨め度:★★★1/2
ITスキル標準について日本でもっともよく知っているスキルスタンダード研究所の高橋代表の著書。
ITスキル標準自体はその名のとおり標準であり、どのように活かすかは顧客側に任されており、さまざまな活用方法が考えられる。製品開発のグルである東京大学の藤本隆宏先生の言葉を借りると、非常に多義性の高い標準である。多義性の話に興味がある方は、ぜひ、こちらの本を読んでみてほしい。
藤本隆宏「日本のもの造り哲学」、日本経済新聞社(2004)
ITスキル標準のひとつの顧客であるIT系の企業や、情報システムオーナー企業はこの多義性を背景に、自社に如何に適用するかを一生懸命考えている。相応なリソースを使って研究し、構築をしている。
ところがITスキル標準には、もうひとつの重要な顧客がある。IT業界で働くエンジニア、コンサルタント、インストラクター、営業マンなどである。こちらの顧客に対しては、派遣業などが若干、自社の事業の枠組みの中で支援をしているが、それ以外には、あまり、手当てがされていないのが現状である。
そのような状況の中で、企業にとっての活用だけではなく、個人にとっての活用方法お、本という個人にとって利用しやすい形で、非常に見識のある人が書いた本としてこの本は評価できる。どうすれば、ITスキル標準を有益に使えるかという視点から書かれた唯一の本だといってもよいだろう。
ただ、残念ながら、本書では、組織の議論と個人の議論の接点や統合があまり明確になっていない。藤本先生のいわれる多義性の解消ができない限り、個人も幸せにならないし、とくにSIのような知識労働集約型のビジネスをやっている企業の業績はよくならないだろう。
IT業界というのはCSとESがばらばらの施策として行われている企業が多く、そのため、キャリアにおける組織の利益と個人の利益の現実的な統合がなかなか、見えてこないのだと思うが、ぜひ、この点をぜひ明確にしてほしいと思う。
さらには、3番目の顧客である顧客のビジネスオーナーに対する考察もほしい。この2点が加われば、さらに意義深い本になるだろう。
目次
第1章 ITSS V2について
第2章 組織におけるITSS活用
第3章 個人におけるITSS活用
第4章 認定制度との関係
付録A ITSS入門
付録B ITSSを理解するための手段
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