3+2=5世代のテクノロジーマネジメント
古田健二「第5世代のテクノロジーマネジメント―企業価値を高める市場ニーズと技術シーズの融合」、中央経済社(2006)
お奨め度:★★★★
日本では、MOT(マネジメントオブテクノロジー)は理科系(研究開発部門や、エンジニアリングマネジメント)の人材のスキルだと考えられている節があるが、経営との融合が低い。米国では、MBAコースの中でかなりの時間をとっているため、よい書籍が多い。ところが日本では、少なくとも、組織マネジャーが読むことができて、なおかつ、自身のマネジメント活動の参考になる本はほとんどなかった。3年くらい前から、MOTの本は恐ろしく増えているが、そのような本を書いている著者自身が視点の違いに気がついていないのではないかと思う。つまり、技術という視点からものごとを見ているため、事業視点があまりくっきりと浮かんでこないのだ。
「ほとんど」と書いたのは、そうは言いながらも過去にもよい本があったからで、その中の1冊が、この本の著者でもある古田さんが5年前に書かれた
古田健二「テクノロジーマネジメントの考え方・すすめ方」、中央経済社(2001)
である。今回の本は、この本の発展版である。
さて、なぜ、第5世代かという話をしておく必要がある。1991年に米国で、「Third Generation R&D」という本が出版されて話題になった。第3世代の研究開発である。第3世代というのは、テーマの発想の方法にある。それまでは「技術シーズ」によるテーマ発想をしていたのに対して、第3世代では、「市場ニーズ」を基にしたテーマをしようというものである。この違いは米国では研究開発に大きなインパクトを与えた。この本は日本でも翻訳出版されている。
フィリップ・ラッセル、タマーラ・エリクソン、カマル・サード(田中靖夫訳)「第三世代のR&D―研究開発と企業・事業戦略の統合」、ダイヤモンド社(1992)
ただし、日本ではあまり大きな話題にはならなかった。
古田氏によると、第5世代というのは、2+3の5であり、第2世代と第3世代の考え方を統合したものであるとのこと。
実は上に述べたこと、つまり、理科系の人だけではなく、文系の人も役立つ理論というのは第3世代の理論であり、古田さんの前著も基本的には第3世代のテクノロジーマネジメントをベースにして書かれている。
が、この何年か、第2世代と第3世代のバランスの重要性が盛んに言われるようになってきており、そのあたりの流れを受けて、新たな本を書かれたのではないかと想像する。
内容であるが、両世代の理論が網羅的に書かれている。事例にもふんだんに触れており、大変に分かりやすい本である。ただ、価格が高いので、購入にはそれなりに覚悟がいる。だた、読んでみて損はない。特に、製造業の企業の組織マネジャーには、ぜひ、覚悟を決めて読んで頂きたい。
目次
第1部 企業経営とテクノロジーマネジメント(企業経営と研究開発活動
研究開発活動のマネジメント
企業経営とイノベーション)
第2部 テクノロジーマネジメントの実際(テクノロジーマネジメントの全体像
現状把握・分析
テクノロジーマネジメントの諸施策 ほか)
第3部 テクノロジーマネジメントの拡張(研究開発活動と新規事業
研究開発活動におけるマーケティング
知的財産マネジメント ほか)
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