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2005年8月12日 (金)

臨床の知

400430203X僕が極めて大きな影響を受けた本に、

中村雄二郎「臨床の知とは何か」、岩波新書(1992)

という本がある。

科学に代表される近代の知の限界を指摘し、その限界を打破するには、「臨床の知」が必要だということを説いている。エンジニアだった僕がマネジメントの勉強をするのに、神戸大学の金井
壽宏先 生を選んだのは、たぶんにこの本の影響がある(と同時に、この時期に懇意にお付き合いをさせていただいていた、今井賢一先生からも臨床知の重要性を教わっ た)。今でも、状況はあまり変わらないが、少なくとも当時は、マネジメントで臨床知の重要性を説いておられたのは、神戸大学の478850197X金井先生、 暴走族のエスノグラフィー―モードの叛乱と文化の呪縛」という本でデビューされ、臨床的な方法でマネジメントの問題に取り組んでおられた一ツ橋大学の佐藤郁哉先生くらいだった。

その後、もうひとり、強力な臨床知派である一ツ橋大学の沼上幹先生が登場される。ちなみに、沼上先生は「
液晶ディスプレイの技術革新史:行為連鎖システムとしての技術」という論文で学位をとられ、それまでの研究体験から、行為の経営学―経営学における意図せざる結果の探究」という4561151265すばらしい臨床知論を書かれている。両方とも難物だが、機会があれば、読んでみてほしい。

話が脱線したが、中村先生の指摘は

=====
科学に代表される〈近代の知〉は大きな成果を生んだ。しかし今日、その限界も指摘されはじめている。人間存在の多面的な現実に即した〈臨床の知〉が構築されねばならない。
=====

といったものである。

臨床の知は、人間の多面的現実に即した知である。科学というのは、現象を捉えていると考えられ勝ちであるが、社会システムが複雑化し、そこに人間という構成要素が密接に絡んでくると、確かに、現象が多面化してくるため、現象を捉えるのは難しい。

このような問題を興味深く書いたのが、養老
孟司先生の「バカの壁」である。

さて、人間系が絡む問題解決においては、一刀両断のソリューションというものは存在しないことが多い。これは感覚的にお分かりいただけると思う。

そこで何が出てくるか。エスノグラフィーである。エスノグラフィーとは

 フィールドワークという調査の方法、或いは、その調査の全プロセス

である。

組織では、今まで、あまりにも観念的に問題解決を行ってきた。もちろん、現場では現象がある。ところが、それが組織の中で意思決定層に伝わる中で抽象化され、その抽象化された問題に対して、問題解決を行ってきたのだ。これは、しばしば、経営的問題と呼ばれる。

現場感覚のある人はこれが如何に無為なものかよく分かるだろう。それゆえに、問題が複雑化、多面化してくると、そもそも、抽象化そのものが難しく、また、抽象化したところでまともな答えは出てこない。これが、別の記事「答えのない問題に如何に対処するか」で指摘したことだ。

そこで必要になるのが、臨床知に基づく問題解決だ。そのための有力な方法論がエスノグファフィーであり、ディープスマートである。

ディープスマートについては最近、よい本が翻訳された。
「経験知」を伝える技術 ディープスマートの本質」という本である。

エスノグラフィーについては、まずは、佐藤郁哉先生の

46411616824788507889組織と経営について知るための実践フィールドワーク入門

という本を読んでみてほしい。
その上で、もう少し、深い知識を得たいと思ったら、同じく佐藤先生の本で

フィールドワークの技法―問いを育てる、仮説をきたえる

という本がある。これがお奨めだ。


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【臨床の知とは何か 目次】
序文 なぜ〈臨床の知〉なのか
1 〈科学〉とはなんだったのか
2 経験と技術=アート
3 臨床の知への道
4 臨床の知の発見
5 医療と臨床の知
6 生命倫理と臨床の知

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