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2009年6月17日 (水)

深く、実践的なチームマネジメント論

4904086902_2 吉村 啓邦「チームの生成と開発」、北辰堂出版(2009)

お奨め度:★★★★★

チームマネジメントのバイブルといわれる

ジョン・カッツェンバック、ダグラス・スミス(吉良 直人、横山 禎徳訳)「「高業績チーム」の知恵―企業を革新する自己実現型組織」、ダイヤモンド社(1994)

という本がある。この本は300ページ以上ある本だ。ジョン・カッツェンバックなどによって確立されているチームマネジメント論をベースに、自らの新しい知見と実践論を交え、発展させ、200ページ強の本にまとめた密度の濃いチームマネジメント論。

構成的には、チームとは何かを明確にした上で、チーム作りの準備、チーム作り、チームの発展について実践的な方法論を述べている。

著者が考えるチームは
・自律性(自ら行動する)
・異質性(多種多様な人の集まり)
・民主性(より人間らしい)
の3つの特徴を持っている。このために、重要なのは
目的と目標
であり、車輪の両輪のように両方を備えて初めてチームだといえる。また、これらの目的や目標の達成において、「連帯責任」を持つのがチームであるという。まさに、そのとおりで、世の中をみれば、目的しかない組織、目標しかない組織が多く、著者の指摘は非常に重みのある指摘である。

さらに、著者はこのようなチームを作るにおいては、まず準備として、基本計画が必要であり、チームリーダーに任命されたら真っ先にやるべき仕事である。基本計画はA4で1枚、
・目的(ゴールイメージ)
・定量的な目標
・アプローチ、戦略
・制約条件
を明記する。これはプロジェクトマネジメントの中では「プロジェクト憲章」と呼ばれるものである。

基本計画ができたら、基本計画に対する組織の合意を取り付け、チームメンバーを選抜する。ここのプロセスの中で、リーダーがメンバーを自由に選べるような環境にあればよいが、場合には押しつけらることも少なくない。その場合には、目標を与え、面談によってフォローしながら自らのチームメンバーとして戦力化していくことが必要であるという。このプロセスは非常に現実的で、有用性の高いものである。

チームを作る準備を終えたら、次はチーム作りである。著者はチームは、家のようなものだという。家のメタファで
屋根=方向性:目的、ビジョン、目標、アプローチ
柱=構造:役職・機能、仕事の進め方、意志決定、ナレッジ共有
外壁・窓=規則・規律:共通言語、会議・ミーティングのルール、就業規則
基礎=人間関係:相互理解、人間への理解、コンフリクトマネジメント
地盤=バリュー:倫理化に基づくコアバリュー、具現化、伝承
という関係があるという。グループからチームにしていくには、これらの要素をしっかりと作っていくことが必要である。

チームを発展する段階で著者が採用しているのは、タックマンモデルである。タックマンのモデルは

(1)チーム形成期
(2)チーム活動強化期
(3)チーム内部個別化期
(4)チーム衰退期

の4つのフェーズでチームの発展を捉えていくモデルである。著者はそれぞれのフェーズで何をすればよいかを紹介している。
さらに、チーム形成期は、
・フォーミング
・ストーミング
・ノーミング
の3段階に分けることができる。ストーミングは混乱の時期で、この時期を乗り越えてチームらしくなる。乗り越える際にはコンフリクトマネジメントが重要である。コンフリクトを乗り越える具体的な対処としては
・放置
・強制
・妥協
・対決
・統合
の5つの方法があり、これらをうまく使い分けて、チームを作っていくことがポイントになる。
最後にチームの終結も重要である。特に、チームの活動の経験をメンバーの個人の活動にどのように活かしていくをきちんと話し合って、次の仕事に向かうのを見届けてチームリーダーの役割は終わるというのが著者の考えである。

この本の背景は、チームを中心にしたプロジェクトマネジメントをどうするかという議論である。以前石川さんの

石川 和幸「チームマネジメントがうまくいく成功のしかけ」、中経出版(2009)

を紹介したが、この本でもやはり、同じようなチャレンジがあった。吉村さんの本の興味深い点は、チームを中心にしたプロジェクトマネジメントに必要なものを、基本計画とWBSに絞っている点である。

この議論はチーム中心か、成果中心かという二元的なものではないが、正直なところ、チームマネジメントでPMBOKなどの成果中心のプロジェクトマネジメントのロジックほど納得性のあるものは見あたらなかった。成果を管理しながら行うプロジェクトマネジメントの中で補完的にチームマネジメントとしhてよいだろうと思えるような内容のものしかなかった。この本は初めてチーム中心にして、成果管理を補完的な扱いにしていけるのではないかと思った本である。

その意味で、プロジェクト活動に携わっている人すべてに読んでみてほしい本だ。

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