オフショア開発の実践的ハンドブック
幸地 司「オフショア開発に失敗する方法―中国オフショアのリスク管理」、ソフト・リサーチ・センター(2008)
お奨め度:★★★★
中国オフショア開発のハンドブック。長く「中国ビジネス入門」というオフショア開発をテーマにしたメルマガを発行し、メルマガ発行のために豊富な取材やサーベイをしている著者らしく、事例や調査データを豊富に掲載するととにも、その背景にある理論を紹介するととにも、問題の具体的な解決策を紹介している。おそらく実践を意識して書かれた本だと思うが、学習にも、読み物としてもと、いろいろなニーズに応えられそうな一冊である。
第1部では、中国オフショア開発の問題点を
・拠点
・発注者
の2つの視点から整理するとともに、事例を紹介しながら、どこに成功と失敗の分岐点があるかを考察している。
第2部はドキュメンテーションをテーマに、技術者のよく書く文章の問題の指摘をし、また、外国人に分かりやすい文章を書くための10カ条を示している。
第3部では異文化コミュニケーションのあり方について、多様性とコミュニケーションマネジメントの視点から述べている。このパートは比較的論理的な話であるが、分量も多く、内容も充実している。著者がもっとも悩んでいる問題であることが伺われる。
第4部、第5部は著者が開発した開発コーディネータの行動特性モデルを紹介している。
第4部は、PM、ブリッジSE編で、
・責任分担の明確化
・実態に即した報告と、厳密な成果レビュー
・見積もり/スケジュール精度の向上
・コミュニケーション基盤の確立
の4点を中心に述べている。第5部はPMO編で
・合理的で公正な評価
・標準化と継続的改善
について述べている。
最後の6部は最新動向ということで、中国、ベトナム、インドのオフショアの動向と比較をし、また、カントリーリスクについても見解を述べている。
オフショアを特別扱いしているうちは、オフショアが本当にうまく行くのは難しいと思う。これは、ダイバーシティマネジメントの本質でもある。この本は良くできていると思うのは、ここで書かれていること、特に開発コーディネータの行動モデルは、PMもPMOも一般的なプロジェクト管理でも通用する話であることだ。そこにオフショアでの例を貼り付けているのでオフショアの話に聞こえるという感じである。その意味で、この本に書いていることを実践すればうまく行くのではないかと期待される。
物足らない点があるのは、分散開発、バーチャルチームの視点から議論である。コミュニケーションの議論の中で多少触れられているが、オフショアのプロジェクトマネジメントに並ぶもうひとつの本質は分散開発だと思われる。また、機会があれば、このあたりをテーマにした本も書いてほしい。
【目次】
はじめに
第1部 中国オフショア開発の問題点
第2部 外国人IT技術者に向けたドキュメント作成の留意点
第3部 異文化コミュニケーションの理論と技法
第4部 オフショア開発コーディネータ行動特性モデル. PM・BSE 編
第5部 オフショア開発コーディネータ行動特性モデル. PMO 編
第6部 オフショア開発の最新動向
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