あいまい性を許容する
名内泰藏「曖昧性との共存」、翔泳社(2006)
お奨め度:★★★★1/2
名内氏は日立で国鉄の座席予約システム「マルス」の中心的役割を果たしたエンジニアの一人である。その体験に基づいたプロジェクトマネジメント論は、ベストセラーになった前作
名内泰蔵「曖昧性とのたたかい―体験的プロジェクトマネジメント論」、翔泳社(2005)
で詳しく書かれている。この本は、その経験を抽象化し、17の経験則にまとめている。
2冊ともあいまい性への対処を書かれているが、PMBOK的なリスクマネジメントと若干違うのは、あいまい性をマネジメントしているということ。例えば、曖昧性との戦いの中で、システムの重要部分をキャリアの浅いエンジニアに任せるという話がでてくる。管理的な視点でみれば、スキルあった部分を担当させるというのが正道なので、こんなことは危なくてやっていられない。しかし、マネジメント的な視点からみれば、目立つので悪いことが早く見つかるので、そうすべきだというのが著者のロジックである。
こういうロジックが作られる背景には、いくらあがいてもプロジェクトには曖昧性がある。曖昧性と喧嘩をするのではなく、如何に曖昧性とうまく付き合えるかが問題
というような著者の独特の視座がある。
以前、ある研究所で同じくマルスの中心人物の一人で、後に京都大学でアカデミックキャリアを歩み、日本の情報処理教育の基礎を気づかれた大野豊先生に指導された経験がある。大野先生もこのようなスタンスだった。ソフトウエアエンジニアリングやプロジェクトマネジメントが進んできたのはよいことだが、一方で、曖昧性に勝てる(無くすことができる)という錯覚が生じているのではないかと思う。そして、その錯覚がプロジェクトの躓きの原因になっているプロジェクトは決して少なくない。
著者は、ユーザー企業とITベンダー、競合ベンダーの間で曖昧さが混入する構図を「曖昧の三角関係」と呼んでいる。いくら、エンジニアリングやプロジェクトマネジメント、マーケティングマネジメントが進んで行こうとおそらくこの曖昧性がなくなることはないだろう。
その意味で、そのような思いを持つプロジェクトマネジャーは「視座」を変える必要がある。そのために、IT系に限らず、読んでほしい一冊である。前作と較べると、ITに限定しない書き方がされているので、ITの専門でなくて、十分読める本に仕上がっている。
目次
第1部 要件定義、見積り、設計(要件の曖昧性を認識する
業務の本質的理解に努める
何でも見積もり、設計する ほか)
第2部 リスク対応(リスクに備える
リスクを洗い出す
光の裏の影を見る)
第3部 プロジェクト推進(ラストマン意識を持つ
FACTを追求する
徹底する ほか)
コメント