すぐに使えるTEDプレゼンテーションテクニック
ジェレミー・ドノバン(中西 真雄美訳)「TEDトーク 世界最高のプレゼン術」、 新潮社(2013)
お奨め度:★★★★★
TEDは、Technology、Entertainment、Designの3つの分野で感動や衝撃をもたらすアイデアを紹介し、広めていくことを目的としたNPOで、アメリカのカリフォルニア州ロングビーチで年一回、大規模な講演会を行うことで有名になった。今、講演会は世界各地で行われ、日本でも東京や京都で行われている。
TEDでプレゼンテーションするのは、業績や特別な才能のある人と、自分の身に起こった驚きのストーリーを語る普通の人の2つのタイプがあるが、後者の成功はプレゼンテーションが鍵になる。
TEDは本書はTED×イベントのオーガナイザーの一人である著者が、TEDで成功したプレゼンテーションから、特に後者のプレゼンテーションにみられる成功の秘訣をまとめた本。
TEDの運営者はプレゼンテータ―に「TEDの十戒」なるものを示している。著者はこれを「内容」、「伝え方」の二つのカテゴリーに分けて示している。まず、内容に関しては、
・オハコの披露にとどまることなかれ。
・大きな夢を語れ。あるいは人々の驚きを誘う新しい何かを示せ。もしくは、はじめて明かす話をしろ。
・ストーリーを語れ。
・闇に葬られたくなければ、ステージ上での売込みはやめるべし。開発や商品、著作の宣伝をするなかれ。資金提供も請うてはならない。
・「笑いは宝」と心得よ。
の5つ。伝え方の掟は
・好奇心と情熱を惜しみなく示せ。
・良き関係づくりと最高の議論を目的として、他の話し手の発言には自由に意見を述べるべし。
・自慢話に終始するべからず。己の弱みを隠すなかれ。成功とともに失敗を語れ。
・原稿を読むべからず。
・次の話し手の時間を奪ってはならぬ。
の5つである。
本 書は優れたトークはこの十戒をどのようにクリアしているかを分析した本であるが、その前にこの10個について、共感できるかどうかを考えてみてほしい。 TEDに限らず、優れたプレゼントの心得としてよく言われることが多いが、全体としてオープンな意見効果の場を作ることを目的とした十戒のように思う。な ので、この本をプレゼンテクニックとして読むにはその点に若干注意が必要である。たとえば、仕事をとるための顧客プレゼンテーション、資金獲得のプレゼン テーションなどには、そのまま使うとまずい部分がある。逆に、講演会などの場では非常によいプレゼンテーションの心得だと思う。
本書では、十戒を分類しているように、ポイントを構成やストーリーに関するもの、伝え方やスライドの作り方に関するものの2つに分けている。
構成やストーリーに関するものとしては、
・トピック
・キャッチフレーズ
・紹介
・スピーチのはじめ方
・本論とつなぎ
・締め方
・ストーリーの語り方
の6つについてポイントを挙げている。たとえば、トピックの選び方については、
・この世の見方が変わるような一つのアイデアで勝負する
・ストーリーと事実を積み重ねて、聴衆を主体としたトークを組み立てる
・人の心の欲求(帰属、利己、自己実現、未来への希望)に応える
といったポイントを挙げている。また、ストーリーの語り方であれば
・あなたが経験したことや見たものからストーリーを引き出す
・語らずに示す
・起承転結があり、最後は成功するストーリーを語る
といったことをポイントとして挙げている。具体的な例は本書を見てほしい。
後半は伝え方。ここでは、
・言葉の使い方
・ユーモアを盛り込む
・身体を使ったコミュニケーション
・印象的なビジュアル効果を入れる
・恐怖心を克服する
の5つ。たとえば、言葉の使い方としては、
・1対1で熱心に語りかけるようなトーンで話す
・声の大きさやスピードを調整して、話し方に変化をつける
・聴衆に単数形の「あなた」で話しかける
といったことを挙げている。
こ の本を読んでいて気が付いたのは、僕がメルマガを書くに当たって気をつけていることと似ていること。トーク独特の指摘もある。たとえば、「声の大きさやス ピードを調整して、話し方に変化をつける」というのはそうだが、これは声の大きさ、話すスピードに該当するものは何かと考えてみると、書くときにも言える ことだ。
つまり、ここで示されていることは、少し抽象化して考えると、オープンな環境を前提にして表現をするときに役立つテクニックであ る。その意味で、TEDは無縁だと思っている人にも読んで欲しい本だ。もちろん、何かのきっかけでTEDでプレゼンできる機会がやってくるかもしれないの だから。
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