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2020年11月11日 (水)

【マネジメントスタイル:雑談8】組織文化について考える(2)~組織文化の3つのレベル

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Culture3◆組織文化の本質は基本的仮定

前回、シャインの組織文化論の入り口として、3つのレベル、すなわち

レベル1:人工的に創造されたもの(artifact)
レベル2:信条と価値観(espoused belief and values)
レベル3:基本的仮定(assumption)

を紹介しました。前回は英語は紹介していませんが、「組織文化とリーダーシップ」(ダイヤモンド社、白桃書房)の翻訳とは少し表現が異なりますので、念のために英語も併記しておきます。

assumtionを基本的仮定としているのは違和感がある人がいるかもしれませんが、違和感があれば「前提条件」と読み替えてください。ただし、シャインの言うassumptionとは、一般的な意味での前提条件ではなく、組織の中で基本的な深いところに保たれている前提条件であることには注意しておいてください。

さて、この3つのレベルは相互関係があるというのは前回説明した通りですが、シャインの組織文化の本質は三番目の基本的仮定にあります。違う言い方をすると、意識されることなく当然のものとして抱いている信条や価値観です。

基本的仮定は、組織において、問題に対する解決策が繰り返し成功を収め、それが当然のこととして認められるようになってきたものです。これは、直感や価値観によってのみ支持されていた仮説が次第に現実のものとして認められるようになったことを意味しています。


◆価値観と基本的仮定の違いが分かる例

一つ、例を考えてみます。R社では顧客からの要望を聞き出し、その要望を実現するためのシステム商品を提供することをビジネスとしています。R社には顧客の要望にはできるだけ応えるという組織文化があります。

その中の一つのプロジェクトでは、プロジェクトリーダーのNさんはステークホルダー第一という考え方でで、ステークホルダーの要望はできるだけ叶えたいと考えていました。これに対して、顧客の要望を取り出す責任者だったメンバーのAさんは無駄なことをすべきではないという考えを持っていました。

このようなプロジェクトの中で、顧客の要望ははっきりしているのですが、具体的な要望の実現方法が二転三転してAさんは困っていました。そこで、Aさんは自分なりに顧客の要望の本質を分析し、Nさんに「これで顧客に提案したい」と相談しました。これに対して、Nさんは、「顧客の要求に一つずつ答えていくべきだ。スケジュールの遅延の社内的な調整は私が責任を持つ」と返しました。

これを聞いたAさんは、プロジェクトリーダーのNさんに従いました。そして、Nさんは社内調整をし、プロジェクト期間を延長し、新しい納期には顧客に満足される納品をしましたが、コストは当初の倍になり、プロジェクトとしては赤字になりました。

この例の中で、なぜAさんは自分の判断で粘り強くNさんを説得しなかったのかという問題があります。ここで問題になるのが組織の文化です。仮にNさんが個人的な信念で例のような行動をしたのであれば、Aさんが説得するのはそんなに難しいことではないでしょう。ちょっとした説得のコミュニケーション術を身につけていれば何とかなります。

しかし、このケースの場合、顧客の要求に愚直に対応するという組織の文化がありました。だからこそ、Nさんの考えが組織に指示されたとも言えます。この組織の文化こそ、基本的な仮定(前提条件)です。個人のレベルの信念や価値観は変わることができますが、この基本的な仮定を変えることは非常に難しく、時間がかかります。まさに、これこそが、シャインが組織文化のDNAだと称している、文化の本質なのです。


◆DEC社の組織文化の3つのレベル~レベル1

では、ここでシャインが最初に使ったケースを使って、この3つのレベルをイメージしてみたいと思います。ケースに取り上げるのは、デジタル・イクイップメント社(以下、DEC)という会社です。DEC社は1980年代には世界第2位のコンピュータメーカになりながら1990年代に衰退し、1998年にコンパック社に買収され、そのコンパック社に2001年にヒューレッドパーカー社に買収され、現存しない企業です。シャインはDEC社に生産性の向上のために招聘され、その中で組織文化の分析して、変革に取り組んでいきます。

まず、レベル1の人工的に創造されたものですが、シャインは以下のような観察をしています。

<レベル1>
・多くの建物は入る際にカウンターの後ろに座っている警備員のところでサインしなくてはならない。
・サインを済ませると、小さいながらもきちんとしたロビーに案内され、訪問する本人や秘書が降りてくるまで待つ
・小部屋や会議室にはほとんどドアはなく、極めてオープンである
・カフェはオープンに広がり、テーブルに座り、テーブル間をしきりに移動している
・ランチの間でも仕事に夢中になっている
・地位に伴う特権(例えば専用の駐車スぺス、特別な眺望のオフィスなど)は全く存在していない
・ロビーやオフィスに置かれた家具は高級ではなく、機能的である
・マネジャーや従業員は砕けた服装をしている
・シニア経営陣のスタッフミーティングは激しい対人関係の衝突、議論好き、対決が取り交わされている
・目に見えて地位をあらわす社員はほとんど存在しない
・ケン・オルセン(社長兼創業者)は打ち解けた行動をとり、パワーが備わる自身のポジションを深くは意識していない
・メンバーが間違っていると感じたときには、地位の差を明確に表明する
・DECはマトリクス型に組織されている
・どんどんコミュニティが作られ、コミュニケーションが行われている

などです。詳しくはシャインの書籍をみて下さい。


◆DEC社の組織文化の3つのレベル~レベル2

次に、信条と価値観のレベルであるが、シャインが気づいたのは以下のような
ものでした。

<レベル2>
・すべてのレベルの社員が自分が何をしようとしているのかを考え、常に「適切なことを成し遂げる」ことを推し進めることに責任を負う
・ある意思決定を実行する責任を担う人たち、必要なサービスを提供してくれる人たち、その決定から影響を受ける人たちから「賛成」を得ずにものごとを
開始してはならない
・自分の職務の本質は何であるかを発見し、はっきりした視点を築く
・人々はグループミーティングで激しく言い争うが、仲の良い友人であり続ける
・製品には、クオリティと洗練さが必要である
・DECの仕事は高度に倫理的であり、その仕事に伴う価値観はプロテスタントの労働倫理にもとづく

といったものです。こちらも詳しくは、シャインの書籍を見てください。


◆DEC社の組織文化の3つのレベル~レベル3

そして、シャインはこれらの価値観に伴う意味を理解し、それがいかに表に現れた行動と関連しているかを示すためには前提条件を理解することが必要だと考え、分析をしていくわけです。

まず、創業に加わったグループに見られる前提条件を以下のようなものだと分析しました。


<レベル3>
(1)個人は究極的にアイデアと起業家精神の源である
(2)個人は責任を担い、正しきことを実行する能力を備えている
(3)誰ひとりとして自分自身のアイデアを評価できるのほど十分スマートではないので、ほかの人たちが支援し、賛同を示さなければならない
(4)企業が果たすべき基本的な責務はイノベーションであり、その種の仕事は現在でも、将来においても常に「挑戦を含む」ものだ
(5)われわれは一つの家族であり、メンバー同士がお互いに慈しみ合う

という5つがありました。これらを基本的仮定だとし、「グループコンサルテーション」という手法で生産性の向上に取り組んでいきますが、やがて、別の基本的仮定があることにも気づきます。これはカスタマーやマーケッティングに対する信条や価値観を反映するもので、以下の5つです。

(6)製品を売る際の唯一の適切な方法は、カスタマーの問題がなにであるか、いかにその問題を解決するかを発見するかだ
(7)社員はどのようなときにでも責任を取ることができ、継続的に責任を取ること行動を示すことができる
(8)マーケットはもしそこにいくつかの製品の競合者がいるときに、最高の意思決定を促す
(9)DECが極めて大規模で、多角化された企業に成長しても、事業部ごとに分割するよりも、何らかの中央コントロールを保つことが望ましい
(10)DECのエンジニアは、その製品に取り組むことを個人的に好むと好まざるにかかわらず、つねにすぐれた製品に対する「最高の知識」を備えている


◆組織文化の威力

実はこの例を最初に目にしたのは、1990年くらいにシャインの「組織文化とリーダーシップ」を読んだときでしたが、実はそれ以前の5年間くらいDEC社と一緒に仕事をしていました。そのような経験を踏まえて感じたことは、非常に適切な分析であることでした。

非常に興味深いのは、著者が一緒に仕事をしていたのは日本支社で、主に一緒に仕事をしていたエンジニアは別のコンピュータメーカの出身者でした。にもかかわらず、後で考えてみれば、確かにこのような価値観と基本的仮定があると考えるとそのエンジニアのものの考え方や行動が理解できることに気がつきました。言い換えれば、これは数年の間に組織文化に染まったことを意味しています。組織文化の力というのは凄いと思った記憶があります。

これがDEC社の例を紹介した一つの理由です。それからもう一つの理由があります。この分析を見ていると30年以上前の事例にも拘わらず、特に基本的仮定はあまり古さがありません。名前を伏せて、アップル社の事例だといえば、そんなに大きな違和感はないと思います。これが組織文化の特徴だと思われます。

人工的に創造されたものは時代ともに代わります。DECの例を見ていると、こんな時代もあったなあと感じます。信条や価値観も人工的に創造されたものではないにせよ、やはり時代とちもに代わっていきます。しかし、基本的仮定は、同じようなタイプの企業であればあまり変わりません。例えばアップルですが、アップルはDECとは全く異なるといってもよいような事業内容になっているにも関わらずです。

つまり、組織文化の本質である、基本的仮定は時代の流れに対して普遍性があるのではないかと思えます。これは、組織文化を変革し、生産性の向上や業績の向上を目指す場合には、非常に大きな意味があります。

さて、では、どのように文化変革をしていくのかが次の問題です。これについては、次回に述べたいと思います。


◆関連セミナー

VUCAマネジメント塾の第2回説明会&体験会を開催します。

今回は、組織文化をテーマに行います。

━【開催概要】━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
◆VUCA時代の事業と組織文化のつくり方~組織文化編◆
 日時:日時:2020年12月08日(火) 14:00-16:00
 場所:ZOOMオンライン
 講師:好川哲人(有限会社エムアンドティ)
    新井宏征(株式会社スタイリッシュ・アイデア 代表取締役)
 詳細・お申込 https://vuca-mgmt-201105.peatix.com/
 主催:プロジェクトマネジメントオフィス、スタイリッシュ・アイデア
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13:50    開場
14:00-14:15 VUCAと向き合う(新井宏征)
14:15-14:45 組織文化でVUCAを乗り越える(好川哲人)
14:45-14:55 質疑
14:55-15:50 ワーク(好川哲人)
15:50-16:00 VUCAサービス紹介(新井宏征)
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【参考文献】

シャインの組織文化の最新版の原著は

Edgar H. Schein「Organizational Culture and Leadership, 5th Edition
(The Jossey-Bass Business & Management Series)」、Wiley(2016)
https://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/1119212049/opc-22/ref=nosim

です。本書は第5版ですが、初版を翻訳した本は、すでに絶版されていますが、

エドガー・H. シャイン(清水 紀彦、浜田 幸雄訳)「組織文化とリーダーシッ
プ―リーダーは文化をどう変革するか」、ダイヤモンド社(1989)
https://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4478360111/opc-22/ref=nosim

があります。

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