コンセプチュアルな人になるために身につけたい思考の技法
高津 尚志「ハイブリッドに考える思考の技法」、かんき出版(2013)
お奨め度:★★★★★
IMDというスイスのビジネススクールの日本代表を務められている高津尚志さんの唱える思考法ハイブリッド思考に関する一冊。この思考法は二律背反をうまく使うことによって、最適な解を見出す思考法で、 ロジャー・マーティンの提唱した「インテグレーティブ・シンキング」の一種。いま、まさに求められている思考法だ。特に、リーダーやマネジャーのように意見をまとめなくてはならない立場の人にお奨めしたい一冊。
ダニエル・ピンクが提唱したハイコンセプトは、左脳と右脳を両方使うことに本質がある。たとえば、機能とデザインだ。コンセプチュアルな人は常に このように考える。今までであれば、機能を取るか、デザインを取るかという考え方をすることが多かった。選択肢を準備して、どれをとるかを意思決定してい た。
たとえば、携帯電話で日本のメーカーは機能(ハードウエア)の制約の中で、デザインを犠牲にしてきた。電話としての形があり、電話の ボタンを前提にしたインターフェースデザインでネットワークへのアクセスUIとしては非常に使いにくいものだったが、電話機であることを選択していたわけ だ。
ところが、この二律背反を解消したのが、アップルのスマートフォンだった。アップルは電話機としての制約を前提にせず、電話ボタンをなくし、すべてをソフトキーにすることによって、電話としての機能性を高めながら、使いやすいネットワークインタフェースを実現した。
この本はこのような二律背反を積極的に活用し、最適解を見つけようとする「ハイブリッド思考」について解説した本である。まず、ハイブリッド思考の具体的な方法を10個、取り上げている。以下の10個だ。
まず、「拡散×収束」。この思考法によって、十分にアイデアを出し、納得感のあるまとめに至ることができるとする。
次に「空気を読む×流されない」という思考。この思考によって、目的志向で異論を唱え、その表現方法は空気を読むことができるとする。
以下、残り8つの思考パターンと効用を列挙する。
・専門領域の確立×興味の広さ
→ 専門領域への専心で期待に応え、新しい領域の扉を開ける
・革新的×普遍的
→ 時空を超えても価値を失わない、合目的的なモノ、コトを作り出す
・リーダー×フォロワー
→ その場、その瞬間、組織の目的を達成するための役割を担う
・利己×他利
→ 相手の「利」を優先することで、自分も「利」する
・全体×部分
→ 「全体」の視界に立って、自分が担うべき「部分」を全うする
・教える×学ぶ
→ 教えることこそ、学ぶ最大の機会
・慎重×大胆
→ 大胆な決断後の変化を慎重に予測し、それを軸に組み換える
・短期×長期
→ 今、ここで蒔いた種はいつか花開き、実になる
いずれも、統合により、選択肢を超える解が得られる思考パターンだといえる。具体的な例などは、本を読んで欲しい。
さらにこの思考をどのように人生や仕事に生かすかを問題に対する対応として示している。いくつかあるのだが、
・同じことを繰り返しているかもしれない
・ひとつのものの味方しかできない
・キャラが固定化している
・仕事が固定化している
・自分には個性がないかもしれない
・新しい価値がなかなか生まれない
・クリエイティブな発想ができない
・企画のアイデアが浮かんでこない
・仕事は一人でやった方がてっとり早い
・争いたくない、戦いたくない
・気持ちのいいコミュニケーションをした
といった症状にハイブリッド思考による処方箋を示している。
今、ビジネスもキャリアも世の中も複雑化している。AかBか、スパッと割り切れないことが多い時代に不可欠な思考法である。ぜひ、マスターしておきたい。
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