オーケストラに学ぶマネジメント(ファンが選ぶビジネス書23)
小松 長生「リーダーシップは「第九」に学べ」、日本経済新聞出版社(2011)
お奨め度:★★★1/2
※facebook記事「オーケストラに学ぶリーダーシップ」
世界的な指揮者の一人である著者が、指揮者からみたオーケストラを通じて、一般的なビジネス組織のマネジメントに薀蓄を傾けた一冊。オーケストラに関する説明はわかりやすく、興味深いが、一般的なマネジメントへの見識は推察域を出ていないので、そのあたりを自分なりの補完しながら読めるのであれば、非常に面白い本。マネジメントの知識がない人にはお勧めできない。
オーケストラ組織と一般組織のアナロジーを考えるときに、ポイントになる点が2つある。一つはコンマス(コンサートマスター)の存在だ。もう一つは、指揮者が常任であるか、客演であるかだ。
後者に常任か、客演かは、プロジェクト組織か、ライン組織かの議論にしている。客演の指揮であれば、そのオーケストラの常任指揮では出てこない別の一面を引き出すことに意義がある。常任の場合は、もう少し長い目で見て、育成も考えたプログラムを作り、常任期間中は育てながら、よい演奏をすることを目指す必要がある。
常任か客演かによって若干イメージが変わってくるが、コンマスはプロジェクトであれば技術リーダーの役割であり、ライン組織であればチームリーダーの役割を果たすことになる。
いずれにしても、まず、指揮者にとって最も重要なのはコンマスとの関係である。著者は、コンマスは兵の将であり、指揮者は将の将であると位置づけている。この関係において、指揮者は大所高所に立った音楽の方向性を示すことが求められる。コンマスはその方向性を各パートに伝えることが役割だとしている。この関係をスムーズにするためには、指揮者はコンマスの仕事をよく理解している必要がある。
これは非常に参考になる指摘である。プロジェクトマネジャーには、技術リーダーの仕事をよく知らないままで、指示をしている。すると、技術リーダーは十分に力を発揮できず、プロジェクトとして、パフォーマンスが悪くなる。そこで、プロジェクトマネジャー自身が技術リーダーの役割に介入してくる。
著者は、指揮者はコンマスの仕事を理解し、その力を引き出せるだけで一流であると断言する。確かに、そのとおりだと思う。プロジェクトマネジャーは、技術リーダーやチームリーダーの力を引き出せれば、うまく行くし、一流だといってもよいだろう。
指揮者のコンマスに対する対応については、いくつか興味深い指摘がある。一つは、任せるところは任せるべきという指摘。口出ししないことも一つの選択だという。二つ目は、優秀な指揮者ほど、時間があまるという指摘。意思決定を任せるからだ。
コンマスも含めて、オーケストラを動かすには、目的や意義の提示が求められるという点でもチームに似ている。これが指揮者の大きな役割の一つだという。そして、その目的を達成するための計画性や決断力が必要とされるという点でもプロジェクトマネジャーの仕事に似ている。
指揮者にとってリハーサルは極めて大切だという。リハーサルでは、
・技術的、合奏的に難しい個所を押さえ、
・曲を通してみて、曲の全体を把握し、
・総ざらいをしながら細部に磨きをかけて、ゲネプロで全体像をチェックする
という順序で進める。この中で、以下にオーケストラをまとめ上げるかが指揮者の腕である。そこで行わなくてはならないことは、
・解釈:作曲者と作品のイメージを把握する
・構想:曲のどこが難しく、そのような作業工程を組めば効率よく仕事が進むかを構想する
・共有:楽想を楽員と共有する
・実現;演奏によって曲のイメージを浮かび上がらせる
の4つである。このプロセスはいくつかの点で興味深い。
一般的にプロジェクトでは、このようなプロセスを踏んでプロジェクトを進めている。まず、プロジェクトスポンサーなり、プロジェクトマネジャーが自分なりに、プロジェクトを理解する。顧客は何を望んでおり、成果物はどのようなものかだ。これが解釈になる。
それに基づいてプロジェクト憲章を作り、プロジェクトの進め方を決める。そして、計画に落とし、あるいはプロジェクトマネジャーに計画を作らせ、メンバーと共有をする。そして、計画を実行することによって、顧客の要求を満たしていく。
さらに興味深いのはこのプロセスにおけるコミュニケーションのあり方である。コミュニケーションには言葉は要らない。音楽でコミュニケーションを取ることが理想である。また、演奏によって楽員とコミュニケーションを取れることもある。
常任の場合、仕事は指揮棒を振るだけではない。プログラムを作ったり、リクルーティングを行ったり、ソリストとの信頼関係の構築をしたりといった組織的な仕事がある。さらに、舞台で起こるハプニングの危機管理をする必要もある。
指揮者が育つには何が必要か。著者は仕事だけでは深みがでないという。仕事だけではなく、生活や家族と過ごしたり、趣味をする中で、感動することが重要であるという。この点においても、プロジェクトマネジャーは参考にすべき点がある。多くのプロジェクトマネジャーは仕事漬けである。仕事づけになると、本当の意味で、顧客やメンバーとのコミュニケーションができないし、また、想像力が生まれない。メンバーがよい仕事をしたことを心から喜べないし、顧客が何を望むかを想像することもできない。
このような壁を打ち破ることがプロジェクトマネジャーとしての成長に直結する。この本を通じて、いろいろな指摘やアナロジーが指摘されているが、もっとも重要な点はここではないかと思う。
後者に常任か、客演かは、プロジェクト組織か、ライン組織かの議論にしている。客演の指揮であれば、そのオーケストラの常任指揮では出てこない別の一面を引き出すことに意義がある。常任の場合は、もう少し長い目で見て、育成も考えたプログラムを作り、常任期間中は育てながら、よい演奏をすることを目指す必要がある。
常任か客演かによって若干イメージが変わってくるが、コンマスはプロジェクトであれば技術リーダーの役割であり、ライン組織であればチームリーダーの役割を果たすことになる。
いずれにしても、まず、指揮者にとって最も重要なのはコンマスとの関係である。著者は、コンマスは兵の将であり、指揮者は将の将であると位置づけている。この関係において、指揮者は大所高所に立った音楽の方向性を示すことが求められる。コンマスはその方向性を各パートに伝えることが役割だとしている。この関係をスムーズにするためには、指揮者はコンマスの仕事をよく理解している必要がある。
これは非常に参考になる指摘である。プロジェクトマネジャーには、技術リーダーの仕事をよく知らないままで、指示をしている。すると、技術リーダーは十分に力を発揮できず、プロジェクトとして、パフォーマンスが悪くなる。そこで、プロジェクトマネジャー自身が技術リーダーの役割に介入してくる。
著者は、指揮者はコンマスの仕事を理解し、その力を引き出せるだけで一流であると断言する。確かに、そのとおりだと思う。プロジェクトマネジャーは、技術リーダーやチームリーダーの力を引き出せれば、うまく行くし、一流だといってもよいだろう。
指揮者のコンマスに対する対応については、いくつか興味深い指摘がある。一つは、任せるところは任せるべきという指摘。口出ししないことも一つの選択だという。二つ目は、優秀な指揮者ほど、時間があまるという指摘。意思決定を任せるからだ。
コンマスも含めて、オーケストラを動かすには、目的や意義の提示が求められるという点でもチームに似ている。これが指揮者の大きな役割の一つだという。そして、その目的を達成するための計画性や決断力が必要とされるという点でもプロジェクトマネジャーの仕事に似ている。
指揮者にとってリハーサルは極めて大切だという。リハーサルでは、
・技術的、合奏的に難しい個所を押さえ、
・曲を通してみて、曲の全体を把握し、
・総ざらいをしながら細部に磨きをかけて、ゲネプロで全体像をチェックする
という順序で進める。この中で、以下にオーケストラをまとめ上げるかが指揮者の腕である。そこで行わなくてはならないことは、
・解釈:作曲者と作品のイメージを把握する
・構想:曲のどこが難しく、そのような作業工程を組めば効率よく仕事が進むかを構想する
・共有:楽想を楽員と共有する
・実現;演奏によって曲のイメージを浮かび上がらせる
の4つである。このプロセスはいくつかの点で興味深い。
一般的にプロジェクトでは、このようなプロセスを踏んでプロジェクトを進めている。まず、プロジェクトスポンサーなり、プロジェクトマネジャーが自分なりに、プロジェクトを理解する。顧客は何を望んでおり、成果物はどのようなものかだ。これが解釈になる。
それに基づいてプロジェクト憲章を作り、プロジェクトの進め方を決める。そして、計画に落とし、あるいはプロジェクトマネジャーに計画を作らせ、メンバーと共有をする。そして、計画を実行することによって、顧客の要求を満たしていく。
さらに興味深いのはこのプロセスにおけるコミュニケーションのあり方である。コミュニケーションには言葉は要らない。音楽でコミュニケーションを取ることが理想である。また、演奏によって楽員とコミュニケーションを取れることもある。
常任の場合、仕事は指揮棒を振るだけではない。プログラムを作ったり、リクルーティングを行ったり、ソリストとの信頼関係の構築をしたりといった組織的な仕事がある。さらに、舞台で起こるハプニングの危機管理をする必要もある。
指揮者が育つには何が必要か。著者は仕事だけでは深みがでないという。仕事だけではなく、生活や家族と過ごしたり、趣味をする中で、感動することが重要であるという。この点においても、プロジェクトマネジャーは参考にすべき点がある。多くのプロジェクトマネジャーは仕事漬けである。仕事づけになると、本当の意味で、顧客やメンバーとのコミュニケーションができないし、また、想像力が生まれない。メンバーがよい仕事をしたことを心から喜べないし、顧客が何を望むかを想像することもできない。
このような壁を打ち破ることがプロジェクトマネジャーとしての成長に直結する。この本を通じて、いろいろな指摘やアナロジーが指摘されているが、もっとも重要な点はここではないかと思う。
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