今、改めて確認したいリーダーシップの原点(ファンが選ぶビジネス書13/プレゼントあり)
ウォレン・ベニス、バート・ナナス(伊東奈美子訳)「本物のリーダーとは何か」、海と月社(2011)
お奨め度:★★★★★
1985年に刊行されたリーダーシップの名作「LEADERS」の第2版の翻訳。第1版は、リーダーシップの分野におけるウォレン・ベニスの地位を確立するとともに、今、リーダーシップを学ぶのに落とせない見識のいくつかを提示した本である。分野的には、ビジョン、エンパワーメント、組織学習に、信頼などの分野における見識で、たとえば、「マネジャーはものごとを正しく行い、リーダーは正しいことを行う」といったものだ。
◆第1版の貢献
まず、この本はインタビューとエスノグラフィーで得られた結果を分析し、知見を得て書かれている。対象になっているリーダーは90名で、企業経営者(社長や会長)が60名、公共セクターのリーダー30名という構成である。
まず、改版をするにあたって、著者であるウォレン・ベニス、バート・ナナス両先生が、第1版で有益な指摘だったとすることは、以下のようなことだった。
(1)リーダーシップとマネジメントは違う
(2)リーダーはメンバーに力を与える
(3)組織には全員が共有できるビジョンが必要である
(4)組織には信頼が不可欠である
(5)リーダーはものごとの意味を伝える
繰り返しになるが、この本が出版されたのは1985年である。今、これらを目にして、リーダーシップに対する認識として古いとか、今は違うといったものは見当たらない。むしろ、リーダーシップを議論する際には前提になっているものばかりであり、むしろ、当たり前なのだが、なかなか実行できないというものもある。
◆第2版の力点
これらを踏まえて、第2版では、
・リーダーシップは人格の問題であり、人格は進化する
・組織が競争力を維持するためには、組織の中に知的資本を生み出す仕組みをつくらなければならない
・固い決意がなければ、目標と達成することも、ビジョンを実現することもできない
・信頼を生み出し、それを維持する能力こそ、リーダーシップの要である
・真のリーダーには楽観性によって、他者を自分のビジョンに引き込む力がある
・リーダーは成功につながる行動をとることが多い
というリーダーの特性を強調している。
◆有能なリーダーにみられる4つの特性
90人の有能なリーダーの調査の結果、90人のリーダーのすべてが体現している特性(テーマ)は以下の4つであった。
・戦略1:人をひきつけるビジョンを描く
・戦略2:あらゆる方法で「意味」を伝える
・戦略3:「ポジショニング」で信頼を勝ち取る
・戦略4:自己を創造的に活かす
戦略1の「人をひきつけるビジョンを描く」とは、焦点を作り出すということだ。90人のリーダーはみな、成果に並はずれた関心を寄せていた。彼らのビジョンは魅力的であり、周囲の人間を引き付ける。そして何もしなくても周囲の人間を巻き込んでいく。
そのためには、ビジョンを伝えることが必要である。コミュニケーションがなければ、何も実現しない。そこで、すぐれたリーダーは、ものごとの意味を管理し、それを組織の中で自分が真にコミットできる何かを見出したいと思っている人たちに効果的に伝える。これが戦略2である。
この点に関するもっとも重要な教訓は、
「全員が組織の活動に同じ意味を見出し、組織が置かれている状況を同じように理解しないかぎり、組織は機能しない」
ということだ。このために、リーダーは、行動と象徴を使って、ものごとの意味を浮き彫りにし、それを伝える。そして、語られなかったものを言語化する。
三番目は組織のポジショニングである。著者たちは、ポジショニングはビジョンと同じくらい、重要だという。組織のポジショニングとは、組織が外部環境の適切な場所に自らを位置づけ、それを確立し、維持していくことだ。そのための戦略は4つある。
(1)変化したら反応する
(2)内部環境を変える
(3)外部環境を変える
(4)外部環境と内部環境を新しい関係で結ぶ
この中には、環境に関するリーダーのすべきことがすべて含まれている。
四番目は、自己を創造的に活かすこと。これには
・肯定的自己観を持つ
・ワレンダ要因(失敗を恐れず、学習すること)
の2つの側面があり、以下のスキルが必要である。
(1)不確実性を認め、共有する能力
(2)間違いを受け入れ、活かす能力
(3)未来を見すえて、行動する能力
(4)円滑な人間関係を築く能力
(5)自分を知る能力
◆リーダーの学習の特性
リーダーはこれらのスキルを身につけるために、学ぶことが必要である。リーダーの学習が特別なのは、「組織の文脈のなかで学ぶ」ことを求められることだ。すなわち、学習する組織をつくらなければならない。そのために、有力な方法は以下のようなものである。
方法1:歴史を再解釈する
方法2:実験する
方法3:類似の組織を研究する
方法4:分析する
方法5:研修・教育を行う
方法6:知識を捨てる
これらのよって、リーダー自身が学習するリーダーになると同時に、組織も学習する組織にしていく。その際のキーコンセプトと、参加型で未来志向のオープンな組織をつくることである。
◆成功するリーダー像
最終的に大きな成功をおさめるために必要なリーダー像は
・混乱の時代に方向性を定め、
・変化に対処しながらも卓越した顧客サービスと質を維持し、
・リソースを集めあ、新しい同盟関係を結ぶことで顧客を増やし、
・地球規模で多様性を活用し、
・フォロワーの間位に楽観性、熱狂、コミットメントの感覚を生み出し、
・リーダーのリーダーになることのできるリーダー
である。
この本の素晴らしさは、以上のような指摘を、概念的な話ではなく、インタビュー、観察、歴史などによってストーリー的に行っていることである。結論として書かれていることは今読んでみると当たり前だと思う人もいると思うが(それはそれですごいことだが)、その背景に書かれているストーリーは今読んでも新鮮である。
この本が書かれたのは1990年代であるが、2000年を向けて、管理者のマネジャーとリーダーのバランスがおかしくなってきているように思う。表向きはますます、リーダーの重要性を叫びながら、マネジャーに舵を切っているように思える。リーダーの重要性が言われるのはその裏返しかもしれない。
そんな時代に、改めてリーダーとは何かを考えるために、もう一度、読み直してみたい一冊である。
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