依頼者の期待を上回る成果を上げる方法を具体的に説く
清水久三子「プロの課題設定力」、東洋経済新報社(2009)
お奨め度:★★★★1/2
コンサルタントであり、また、研修講師でもある著者が書いた、プロフェッショナルの仕事術。プロフェッショナルのプロフェッショナルたる所以は、依頼者の期待を上回ることだと断言し、そのためのコアスキルは問題解決力課題設定にあるとし、考え方、具体的なプロセスやそのプロセスで使えるツールについて簡潔に解説している。納得!である。
これまでになかったカテゴリーの本で、すべてのビジネスマンに呼んでほしい本。
この本でいう課題とは、「現状」を「あるべき姿」にするためになすべきことを言う。そのために障害となることを問題と読んでいる。この言葉の定義で、問題解決よりは、課題設定の方がはるかに重要であるというのがこの本のコアメッセージである。
そして、まず、課題設定における基礎体力として、「視座」、「視野」、「視点」に着眼している。
視座:誰がどんな目的を達成するための課題か
視野:どのような広がりと長さで課題をとらえるか
視点:どのように課題を切り出すか
勘のいい人なら、この3つにこだわれと言う話だけで、ほとんど、分かるのではないかと思う。期待を上回る成果を出すための課題設定は、
視座を高め、視野を広げ、視点の鋭さを磨く
ことによって可能になるという。「期待」を上回るといっていっても、誰の期待かという話があり、少なくとも組織(上司)、関係者、顧客の3者の期待を上回るにはこの3つは不可欠というわけだ。
本書はそれぞれの方法について具体的に書かれているのだが、おもしろいのは視座を高める方法。よくものを考えるには2つ上の立場に立って考えろという(この本にもそう書いてある)が、実際には難しいものだ。そこで著者のオリジナルのツール「プロファイリングシート」なるものが出てくる。プロファイルはもともと犯罪者の心理を読む方法だが、ビジネスでもマーケティングなどで顧客理解に使われている。まず、仕事の「バックグランド」、「ポジション」を整理する。その上で、バックグランドから「期待」をプロファイリングする。「ポジション」から「目的」をプロファイリングするすることで、視座を読み解くことを進めている。
視座の高め方としては、年齢を動かしてみるとか、マネジメント系の書籍を参考にするといったことを薦めている。
さらに視野や視座についても、同様に広げたり、先鋭化する方法を説明している。
その上で、課題設定の方法として、
(1)インプット
(2)プロセス
(3)アウトプット
のプロセスを提案し、それぞれのプロセスの進め方を解説している。
まず、インプットでは
・聞く
・ぶつける
・はかる
の3つの手順で行う。聞くことによって情報を集め、課題の仮説を作り、ぶつけることによって相手の反応を知り、仮説を修正する。そして、最終的には情報を定量化する。具体的な方法は本を読んで戴くとして、興味深いのは情緒的な反応を意識することを進めていることだ。プロセスコンサルテーションの考え方である。
次に、プロセスでは、ロジカルシンキングとラテラルシンキングの2つを組み合わせ、
(1)MECEやフレームワークで切り口の整理
(2)前提を疑う
(3)イシューツリーで原因と施策を整理する
(4)見方を変える
(5)ピラミッドで現実的な結論にまとめる
(6)組み合わせる
という手順を提案している。
そしてこれらの分析プロセスのアウトプットとして、
(1)現状とあるべき姿
(2)目的とゴール
(3)アプローチ
(4)スケジュール
(5)体制・役割
(6)リスク・前提条件
の6つからなる課題設定フォーマットへの書き出しを提案している。冒頭に述べたようにプロジェクト憲章である。
プロフェッショナルの仕事術への着眼点として課題設定というのはよいと思うし、課題設定の方法として、全体的に納得性が高く、かなり網羅性もあるように思う。ただ、研修のサブテキストだという感じがぬぐえない。創造的問題解決の本として初めてこの本を読み、この本に書いてあることだけを使って何かできるというものではないと思う。まずはこの本を読み、書かれていることを目的として勉強をしていくという使い方がよいのではないかと思う。その意味でも、課題設定というコンセプチュアルスキルを書ききった感のあるこの本の存在価値は高いといえる。
また、この本で、課題設定プロセスのアウトプットにしているフォーマットはプロジェクト憲章そのものである。その意味で、この本はプロジェクトイニシエーターの教科書といってもよいだろう。
ただし、ここでいうプロジェクトは著者の所属するIBMビジネスコンサルティングがやるような数十億のITのプロジェクトや大がかりな業務変革プロジェクトだけではない。むしろ、もっと小さなプロジェクトの方がイメージにあう。当然、一人プロジェクトもその中には含まれるだろう。
先日、プロジェクトマネジメント本のガイドの中に取り上げた
トム・ピーターズ(仁平 和夫訳)「セクシープロジェクトで差をつけろ! (トム・ピーターズのサラリーマン大逆襲作戦 (2)) 」、阪急コミュニケーションズ(2000)
のようにWOW!なプロジェクトをやりたいときに、大変、役立つ本。トム・ピーターズの本でマインドを学び、清水久三子さんの本で、アプローチを学ぶというのはどうだろう。
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