プロジェクトマネジメントのグル「トム・デマルコ」の集大成
トム・デマルコ、ピーター・フルシュカ、ティム・リスター、スティーブ・マクメナミン、ジェームズ・ロバートソン、スザンヌ・ロバートソン(伊豆原 弓訳)「アドレナリンジャンキー プロジェクトの現在と未来を映す86パターン」、日経BP社(2009)
お奨め度:★★★★★
トム・デマルコはプロジェクトマネジメントに対して、独自の視点から、鋭い指摘をした本が何冊もある。プロジェクトマネジメントのグルを一人あげるとすれば、デマルコと言う人は多いのではないだろうか。僕の好きな3冊はこれ。
トム・デマルコ(伊豆原 弓訳)「ゆとりの法則 - 誰も書かなかったプロジェクト管理の誤解」、日経BP社(2001)
トム・デマルコ、ティモシー・リスター(伊豆原 弓訳)「熊とワルツを - リスクを愉しむプロジェクト管理」、日経BP社(2003)
トム・デマルコ、ティモシー・リスター(松原 友夫、山浦 恒央訳)「ピープルウエア 第2版 - ヤル気こそプロジェクト成功の鍵」、日経BP社(2001)
今回の本は、このような膨大な著作のコアメッセージをTips(パターン)の形でまとめたもので、おまけに、かなりユニークなネーミングとフレーズになっており、楽しめる。ファンであれば待望の一冊。
この本を読んでみて、物足りなければ、単独テーマの本に行くのもよいだろう。
以前、ボスコンのジーニー・ダック氏が書いた「チェンジモンスター―なぜ改革は挫折してしまうのか?」という本が話題になった。特に、この本の中で、改革を妨げる怪獣ということで
・タコツボドン
得意技:自分の担当を超えた視野を持つことを拒否し,「よそ者」の関与を否定する
叫び声:「それはうちの部署に関係ない」,「ご忠告はありがたいがそれは本来うちのやるべき仕事なので後はお任せください」
・ウチムキング
得意技:社内で何が評価されるかを重視し,顧客等の外部ではなく社内にすべての行動の焦点をあわせ,社内外のズレに目を閉ざす
叫び声:「常務,社内の反応は上々です,このままでうまく行くはずです」
といった感じで多くの怪獣を示した本。
デマルコ氏のこの本を読んで、チェンジモンスターを思い出した。Tipsの中には、ベストプラクティス的なものも含まれているが、圧倒的に多いのはモンスター。やっぱ、プロジェクトマネジメントは難しいよなあ。
差し向き、デマルコのこの本は、「プロジェクトモンスター」ってところだろうか。86のプロジェクトモンスターを紹介しておこう。
出版元である日経BPのページにもすべては紹介してなかった。(○)がついたものがそう。これだけ知ったら本はいらないと言わないでね。
1 アドレナリンジャンキー(○)
アドレナリン中毒の組織は、猛烈に動き回ることが健全な生産力のあかしだと信じている。
2 スピード勝負(○)
プロジェクトチームは、一刻も早く誰がいつまでに何をすべきかを決め、すぐにあらゆる必要な行動をとりたいと思っている。
3 死んだ魚(○)
プロジェクトが始まったその日から、目標を達成する見込みはゼロである。プロジェクトに関わる人のほとんどは、それを知っていながら何も言わない。
4 幸福礼賛会議
士気が高いように見せることが、個人の成績評価を大きく左右する。
5 乳母(○)
プロジェクトマネジャーは、昔ながらのイギリスの乳母と共通するスキルをもっている。
6 関連痛(○)
目に見える問題にとらわれ、根本的な原因を解決しない。
7 マニャーナ(○)
すぐに動き始め動き続けなければ仕事が片づかない。そう認識できる時間枠を越えて期日が設定されると、切迫感がなくなり、行動しようというモチベーションがうせる。
8 アイコンタクト(○)
任務が緊急かつ複雑な場合、組織はプロジェクト要員を同じ場所に配置しようとする。
9 ムードリング
マネジャーは、プロジェクトが直面するリスク、意志決定、問題ではなく、チームの活動、努力、熱意をもとに状況報告を行う。
10 信者
特定の方法論を教養のように受け入れる人がいる。教典から少しでも外れるのは冒涜だと思っている。
11 魂を貸す(○)
現場の人間に、長年かけて修得したスキルや技術を捨てる用意がある。
12 レミングサイクル
プロセスには調整しろと明記されているのに、プロジェクトチームはあくまでも調整しない標準プロセスを守り続ける
13 ベンチに人なし(○)
組織をスリム化しすぎて、重要なメンバーがひとり欠けたら破綻する。
14 フェイスタイム
分散プロジェクトチームは、サイト間で顔を合わせる機会をなるべく多く設けることによって、親しみや信頼を築き、離れていてもチームワークがとれるようにする。
15 「どうしてミケランジェロになれないんだ?」
マネジャーは、チームの能力が向上することをひそかに期待しながらツールを調達する
16 ダッシュボード
強いチームと弱いチームはダッシュボードを使うが、並のチームはほとんど使わない。
17 永遠の議論(○)
いつまでも不満を訴える権利を与えていて、結局は何も決まらない。
18 子犬と老犬
若者(20代)の多い組織は、年寄りだらけの組織より活気がある。
19 映画評論家
映画評論家とは、プロジェクトにとって自分の価値は過去や今後の間違いを指摘してやることだと思っていて、間違いを正すためには何もしないメンバーや傍観者のことである。
20 一人一役
プロジェクトの作業が、1つの任務につきひとりの責任者と明確に対応している。どれが自分の任務でどれが仲間の任務か、各自が正確に知っている。
21 ソビエト式
完成した製品は、顧客が要求した機能は備えているが、嫌われてすぐに捨てられる。
22 自然な権威(○)
能力あるところに権威あり。
23 静かすぎるオフィス
オフィスが静かすぎるのは、チームが魔力を失ったしるしである。
24 白線
プロジェクトは、スコープの定義をはっきりさせるために、テニスコートの白線のようなものを使う。
25 沈黙は同意とみなされる(○)
相手には、あきらめの沈黙と同意の区別がつかない。
26 かかし
チームのメンバーは、フィードバックと感想を早く引き出すために平然とかかしソリューションを提供する。
27 いつわりの緊急任務(○)
コストをおさえるためだけに、きつい締め切りが課される。
28 [時間]に切り札を奪われる
[時間]はひどいプロジェクトマネジャーである。
29 ルイス&クラーク
プロジェクトチームは、問題領域を探索し、その可能性を調査するために初期投資を行う。
30 ちびた鉛筆
コスト削減の並が続くと、組織にはプロジェクトを完了する能力もなくなってくる。
31 リズム(○)
チームは、一定の間隔をおくことによって、仕事のリズムをつくる。
32 残業に見る予兆(○)
マネジャーは、早い時期から残業することを、プロジェクトの輝かしい健
全性のあかしだと考えている。
33 ポーカーの夕べ
職務に関係ない活動のために、組織のあちこちから従業員が集まる。
34 エセ品質ゲート
プロジェクトの品質保証担当は、本当の品質向上には役に立たない形式チェックにとらわれている。
35 テストの前のテスト
「テストにはテスト以上の意味がある(だからテストの前に始めるべきである)」-ドローシー・グラハム
36 サイダーハウス・ルール
プロジェクトチームのメンバーは、プロジェクトの作業に関係ない人々が作ったルールを無視または回避する。
37 まず話す、次に書く
プロジェクトチームは会話の中で決定を下し、それから杉に決定を文書で伝える。
38 ダボハゼ(○)
よくばりすぎると組織の動きは鈍くなり、思ったほどの成果は得られない。
しかし、そこには抗いがたい魅力がある。
39 アトラス
チームのリーダーが、(ほとんど)あらゆることに長けている。
40 裸の組織
完全オープンの方針は、しだいに進歩を止めることになる。
41 ピア・レビュー
組織は、候補者と同僚となるスタッフを採用プロセスに参加させる。
42 シュノーケリングとスキューバダイビング
分析活動はプロジェクトの期間中続く。トップダウンで、ボトムアップで、そして、ミドルから四方八方へ。
43 いまいましいインタフェース
プロジェクトチームのメンバーは、自動化の世界であれば人間の世界であれ、絶えずインタフェースに注目している。
44 ブルーゾーン(○)
チームに少なくともひとり、いつも与えられた権限以上のことをするメン
バーがいる。
45 ニュースの改良(○)
悪いニュースが組織の下から上へ正確に伝わらない。
46 真実はゆっくり告げる(○)
企業文化の圧力のせいで、人びとは不快な情報を隠すようになる。
47 エンドゲームの練習
チームは、開発機関中一定の間隔で、つくりかけの製品をリリース基準と照らし合わせる。
48 ミュージックメーカー
IT組織には、音楽をたしなむ人が偏在し、極端に多い場合もある。
49 ジャーナリスト(○)
ジャーナリストは、正確に報告するという目標を、プロジェクトの成功と
いう目標から切り離してしまうプロジェクトマネジャーである。
50 空席
ユーザーエクスペリエンス全体を考え、コンセプトの統一性をはかる人がいない。
51 いとこのビニー
チームのメンバーは、自分たちのアイデアを評価し改良しようと議論する。猛烈に議論するが、恨みは残さない。
52 機能のスープ(○)
製品にはバラバラな機能がぎっしり詰め込まれるが、その多くは、顧客の
本当のビジネスニーズにはほとんど役に立たない。
53 データエラーの真犯人
データの品質がひどい場合がある。この問題に対して嘆かわしいほどよくとられる手段は、そのデータを処理するべくもっといいソフトウエアを探すことである。
54 その名は「ベン」
仕事が絶好調だったり、プロジェクトがおもしろかったり、製品がクールだったりし、給料よりも仕事そのものが好き、という人たちがいる。
55 ミス・マナーズ
チームの仲間に質問するのは、失礼なことだと思われている。
56 知力の集中
1つのプロジェクトにフルタイムで参加すると、個人のパフォーマンスは向上する。
57 「野球に泣くなんてのはないんだ」
感情を表に出すことを否定する文化は、対立を水面下に潜らせてしまう。
58 暴力脱獄
れっきとした対立が「コミュニケーションの失敗」と解釈される。
59 期日はかならず守る
チームの自慢は、何があろうとかならず期日までにリリースを完成させることである。
60 フード++
プロジェクトチームのメンバーがいつも一緒に食事をとり、可能なら、チームで計画して調理する。
61 ほったらかしの成果物
プロジェクトで、誰も金を出そうと思わないような成果物が作られる。
62 隠れた美
プロジェクトのある側面は、十分な域を超え、エレガントな域さえ超え、崇高な域に向かう。
63 わかりません
健全な組織には、本当のことを安心していえる文化がある。それがすぐには答えられない内容だったとしても。
64 レイクウォビゴンの子供たち
マネジャーは、成績評価で優れた者と劣った者に十分な差をつけない。
65 共同学習
プロジェクトの関係者は、他人から学ぶことの多さを理解している。
66 魂の仲間(○)
ある種のチームは、開発プロセスの最も基本的なルールさえ無視すること
が許される。
67 十字穴付きネジ
あきらかに優れたアイデアは、意外なことに、すぐには受け入れられない。
68 イノベーションの予測
チームは、イノベーションに対するニーズと、経営者の予測可能性に対するニーズのバランスをとる。
69 マリリン・マンスター
開発者がキングの組織もあれば、開発者がボーンの組織もある。
70 ブラウン運動
プロジェクトのビジョンが形成されないうちに、チームのメンバーが追加される。
71 音吐朗々
プロジェクトの目標が、繰り返し明瞭に掲げられる。
72 安全弁
チームは仕事の緊張に立ち向かうため、時々ガス抜きをする方法を考え出し、それがチームの生活の一部になる。
73 バベルの塔
プロジェクトは、開発チームとステークホルダーの全員が理解できる一貫した言語を作れない。
74 サプライズ
報償やインセンティブを提供するマネジャーは、思いも寄らない反応を受ける。
75 冷蔵庫のドア(○)
チームのメンバーは、作業の成果をいつも全員に見えるように掲示する。
76 明日には日が昇る
マネジャーは、将来の進捗の平均は過去の進捗の平均を上回ると信じている。
77 パイリングオン
ステークホルダーは、支援を装って追加追加でプロジェクトを膨れ上がらせ、ついには失敗に追い込む。
78 変更の季節
プロジェクトの期間中に何度か、スコープを変更する絶好の機会が訪れる。それらはたいてい、イテレーションの切れ目に関係している。
79 紙幣向上
組織は、作成された文書の重さと数によって進捗の度合いを測る。
80 オフショアの愚行
経営陣は、低賃金に目がくらんでオフショア開発計画を始めるが、開発サイト間のコミュニケーションは複雑になる。
81 作戦会議室(○)
専用の作戦会議室を使うことで、プロジェクトの中心が定まる。
82 何のにおい?
組織の中にいる人は、組織の根底にある生命力にも腐敗にも気づかない。
83 身につかない教訓
チームは間違いを認識しているが、それでも同じことを繰り返す。
84 生半可なアイデアの美徳
チームは、生半可に思えるアイデアでも育てようとする。
85 リーク
時間とコストは、注意深く測定されるカテゴリーから、さほど厳しく測定されないカテゴリーへと「逃れる」傾向がある。
86 テンプレートゾンビ(○)
プロジェクトチームは、製品を完成するために必要な思考プロセスによってではなく、テンプレートによって作業を進める。
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