前提に気づき、視点や行動を変える
清水 勝彦「その前提が間違いです。」、講談社(2007)
お奨め度:★★★★★
「考える」ために必要な、正しい前提、現実を踏まえた起点を、いろいろなケースで検証しながら、かつ、マネジメントや戦略についての気づきを与える本。
まず、最初にフレームワークの説明をしている。この本のフレームワークは、論理的な問題解決に対して、
問題→前提→起点→解決策
というものである。例として「夜中にタバコを買いに行って、曲がり角で酔っぱらい運転の車にはねられた」という問題を考えてみよう。この問題に対して、酔っぱらい運転が悪いという「起点」であれば「酔っぱらい運転を減らすには」どうすればよいかを考えることになる。曲がり角が急すぎるというのが起点であれば「曲がり角を改善するには」という起点になる。タバコ好きが悪いすれば、「夜中にタバコを売るのはやめよう」という話になるかもしれない。
このように、問題に対して、どのような起点を選ぶかが問題解決の大きな問題であるのだが、これを前提という。そして、問題解決がうまく行かないのは、前提が間違っている間違っているケースが多いからだ。
前提を間違ってしまう理由は3つある。一つは、言葉の一人歩き。上の例だと、酔っぱらい運転が悪いとなるのはこれだ。二つ目はわかった気になること。曲がり角が急だと言われると、実際にはどれだけ急かを確認せずとも、ハンドル操作がうまくできずに事故が起こるかもしれないと考えてしまう。これがわかったつもり。3つ目は、おおっぴらにしないから。だから前提だというと清水先生は指摘する。
このように前提はきわめて論理で重要なものであり、前提をうまく見つけることができれば、有効な解決策が見つかり、視点や行動を適切に選ぶことができる。
この本では、このようなフレームワークで
・組織を考える前提
・戦略を考える前提
・人を考える前提
の3つについて、よく起こりがちな問題を取り上げ、前提の分析をし、著者が正しいと考える前提を提示している。たとえば、組織を考える場合には、
1.すべての施策にはプラスとマイナスがある
2.部門間には利害や考え方の対立があって当たり前
3.コミュニケーションが悪いのは部門間の対立の結果ではない。コミュニケーションは分業化、専門化を活かすための手段である
4.「やりやすいこと」「やりたいこと」だけをやっていては組織は成り立たない
5.コミュニケーションとは綱得るべき情報を伝え、対立する点と理由を明らかにすることである
6.組織とは考え方や価値観の異なる人間の集まり
7.「能力がないのに」政治ではない。「能力がないから」政治に集中している
といった前提が正しい前提だと言っている。
著者が正しいと言っている前提には、おっと思うようなものもあるが、結構微妙なものが多い。ただ、この本の価値はそこではないように思う。ロジックの中で「前提」と「起点」に注目して、一冊の本にまとめ、なおかつ、最後に、どうして前提を間違うのか、前提を間違わないにはどうすればよいかを分析し、論理的に説明している。このフレームの価値は計り知れないくらい大きいと思う。
同時に、この本のフレームを知れば、どうしてロジカルシンキングがうまく行かないのかがわかる。僕が論理思考のポイントを説明するときに使う例に、風が吹けば桶屋が儲かるというのは、ロジカルかという例がある。この話は、論理性があることと、すべての論理が確率1であることは別のことだというところからきている。たとえば、
大風で土ぼこりが立つ
という因果は確率が高い。しかし、
土ぼこりが目に入って、盲人が増える
という因果は嘘ではなかろうが、確率はきわめて低い。従って、因果チェーンは確率が低くなり、嘘に近いものになる。こういう説明が一般的だが、前提に注目すれば、怪しい前提が入っているから、因果チェーンが怪しくなっていると説明できる。
逆にいえば、前提をきちんと組んでいけば、正しい論理が作れ、正しい問題解決ができるということになる。
ということで、この本は論理思考を使うあらゆる人に一度は読んでみてほしい一冊である。
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