対話による問題解決
アダム・カヘン(高間邦男監修、ヒューマンバリュー編訳)「手ごわい問題は、対話で解決する」、ヒューマンバリュー(2008)
お薦め度:★★★★1/2
問題には2種類ある。ひとつは技術的な問題解決のように、答えを探す問題である。答えがあるかどうかは分からないが、答えはあるものだとして答えを探す。そして、もうひとつは答えを作る問題である。これは最初から答えがあるわけではない。問題の当事者が納得するような答えを作っていかなくてはならない。マネジメントやビジネスにおける問題はほとんど後者である。
後者の問題の解決方法は、デシジョンテーブル、デシジョンツリー、ポートフォリオ、ロジック、ゲーム理論、線形計画法、KT法(ケプナートリゴー)、TRIZ、TOCなど、あげればキリがないくらいある。
これらの方法はいずれも、現実をモデル化し、そのモデルに対する問題解決手法を適用するという考え方に基づくものであるので、モデル化できるかどうかがポイントになる。上に述べたように答えを作る問題では、当事者が納得できることが必要であるが、そのためには、それぞれの問題解決手法で使っているモデルの妥当性が問われる。これが、一種の手法適用の制約になっている。
利害関係が複雑になってくると、妥当性のあるモデルを作ることがだんだん、困難になってくる。KT法や、TRIZ、TOCなどはステークホルダの利害関係の複雑さに対処しようとしているが、やはり、限界がある。
そこで近年注目されているのが、「対話による問題解決」である。モデルを作ることは、(抽象的な意味での)あるべき姿を作ることであり、問題解決手法はそのあるべき姿に近づけるためのギャロップアプローチである。これに対して、対話によるアプローチは、あるべき姿を作ることから問題解決のプロセスとして行う方法である。
本書は、アパルトヘイト制度の問題、コロンビア内戦、パレスチナ紛争、北アイルランドの独立問題など、さまざまな世界的な難題に取り組んだ著者が、経験に基づき、対話の本質について述べた本である。
この本で主張しているのは、どんなに複雑で解決が困難だと思われる問題でもオープンな対話を繰り返していくことで解決を導くことができるというもので、具体的にアパルトヘイトのファシリテーションの様子が紹介されている。
アパルトヘイト問題の解決を中心に、フィールドワーク的な論調で書かれているため、ビジネスマンが興味をもって読める本かどうかは微妙な部分もあるのだが、基本になっているフレームワークはビジネスでも通用するものである。また、記述も国際問題に知識のない人でも読みこなせ、かつ、十分な洞察ができるような内容である。
最近、ビジネス系の対話本が何冊が出ているが、どうも、タメに作ったような感じがあって、いただけない。対話本の定番といえば、なんといっても、
デヴィッド・ボーム「ダイアローグ 対立から共生へ、議論から対話へ」、英治出版(2007)
であるが、この実践を知るためには、絶好の一冊である。
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