あるべき姿に到達するために必要な機能は何か?
横田尚哉「ワンランク上の問題解決の技術《実践編》 視点を変える「ファンクショナル・アプローチ」のすすめ」、ディスカヴァー・トゥエンティワン(2008)
お薦め度:★★★★1/2
1947年にGE社で考案された発想法であるファンクショナルアプローチを用いた問題解決手法について、実践を意識しながら、解説した一冊。ファンクショナルアプローチは、機能、目的、ベネフィットに注目し、あるべき姿を達成するためのギャップは何かを考え、そのギャップを埋める方策を考えていくという方法。
ファンクショナルアプローチの基本的なステップは
(1)準備:ツール、心構え、手順、対象を確認する
(2)分解:問題を含む全体をファンクションに分解し、再構築する
(3)創造:ファンクションを発想の原点にし、アイディアを創造する
(4)洗練:創造されたアイディアを評価しながら磨き上げる
の4ステップ。本書の構成は、第1章がさまざまな問題解決手法、エンジニアリングマネジメントの手法を紹介しながら、ファンクショナルアプローチの位置づけと特徴を明確にしている。
第2章から第5章まで、上の4つの手順について、細かな手順を示しながら、使えるレベルで説明している。ただし、それぞれの手順は一見具体的なように見える。また、最後にそれを実践するためのツール集が添付されている。が、使おうとするとそんなに具体的ではなく、かなり考えないと使えないことに気づくと思う。
このような書き方をしているのは、著者のポリシーとして、問題解決に必要なものは、事例ではなく、「原理」だという思いがあるからだと思う。ゆえにワンランク上なのだろう。原理を身につけることは使いこなし具合によって、結果に差が出てくるということでもある。読めばそれなりの問題解決はできるが、そのレベルではほかの問題解決手法で得られる解決とそんなに大きく変わらないと思われる。使いつづけ、自分の中でスキルからコンピテンシーに昇華していく必要がある。つまり、自然にこのような発想ができるようになって初めてワンランク上の答えを得られるようになると思われる。
そこで、役立つのは第6章。日常的に遭遇するいろいろな状況を、ファンクショナルアプローチで対処していくことを進めている。
最終章はファンクショナルアプローチで、目標を達成するための指針を見つけ出す方法をいくつかの例をあげて述べている。
本書を読むときに、エンジニアはともかく、それ以外の人は1章を読んでいるといやになる人が多いのではないかと思う。ファンクショナルアプローチの特徴は未来の具現化、普通の言葉でいえばあるべき姿を作ってそれを達成するために必要な機能を探すという点にポイントがある。1章には、この思想的背景がみっちりと書いている。2章以降になると分かりやすいので、ついつい、1章を飛ばして読む人もいると思うが、この本についてはこのような読み方はお勧めできない。1章をきちんと読んでから2章以下を読んでほしい。著者が一番、言いたいことは1章にすべて含まれているのではないだろうか。
【目次】
まえがき
1章 ワンランク上の問題解決とは
1 解決のカギは「問題の認識」と「改善点の特定」
*問題解決5つのフェーズ「I・S・S・U・E」
*問題をいかに認識するか
*どの部分を改善すべきか
2 問題解決がうまくいかない4つの理由
[理由1]轍に沿って進もうとしている
[理由2]解決手段を一生懸命探している
[理由3]潜在的改善点を探そうとしない
[理由4]過去を手放したがらない
*ワンランク上の問題解決をもたらす施行のルール
3 「その努力は何のため?」
*環状線の先頭をぐるぐる回っていませんか?
*「目標を達成しろ」の伝言ゲーム
*「無駄な努力」を見分ける2つの質問
*「なぜ?」よりも「何のために?」
*「手段志向」よりも「目的志向」
*「どちて坊や」にならえ!
*目指すのは「どれだけ良くなったか?」
4 問題に直面したときの4つの志向パターン
[タイプ1]分析力と実行力の両方が乏しい
[タイプ2]実行力があっても分析力が乏しい
[タイプ3]分析力があっても実行力が乏しい
[タイプ4]実行力と分析力の両方を兼ね備えている
5 改善点を見つける5つのアプローチ法
[アプローチ1]仮説検証法
[アプローチ2]品質管理法
[アプローチ3]情報解析法
[アプローチ4]類型置換法
[アプローチ5]機能分析法
6 ファンクショナル・アプローチで視点を変える
*常識から自由になる術を身につけよ
*常識は、2つの因子からできている
*「モノ」ではなく「ファンクション」に視点を移す
*手段から目的へ、部分から全体へ
2章 【実践】ファンクショナル・アプローチ ステップ1 準備
1 5つのツールを準備する
2 より効果的な解決手段を見つける5つのヒント
[ヒント1]相手の立場で考える(使用者優先の原則)
[ヒント2]機能の視点で考える(機能本位の原則)
[ヒント3]過去ではなく未来で考える(創造による変更の原則)
[ヒント4]メンバーとともに考える(チームデザインの原則)
[ヒント5]価値を高めることを考える(価値向上の原則)
3 「準備→分解→創造→洗練」の手順で考える
[ステップ1]準備……ツール、心構え、手順、対象を確認する
[ステップ2]分解……問題を含む全体をファンクションに分解し、再構築する
[ステップ3]創造……ファンクションを発想の原点にし、アイデアを創造する
[ステップ4]洗練::創造されたアイデアを評価しながら磨きあげる
4 解決すべき対象(テーマ)をあらためて認識する
5 対象(テーマ)をパーツに分解する
3章 【実践】ファンクショナル・アプローチ ステップ2 分解
1 分解したパーツを「名詞+他動詞」で表現する
2 付箋紙を使ってファンクションを整理する
[手順1]ファンクションを付箋紙に書く
[手順2]任意のファンクションを手にとる
[手順3]そのファンクションの目的を探す
[手順4]上位ファンクションを確認する
[手順5]さらに上位ファンクションを探す
[手順6]残りのファンクションをすべて関連づける
[手順7]全体をひとつにまとめる
[手順8]不足ファンクションを追加する
3 キー・ファンクションを見つけ出す
*キー・ファンクションとは本質である
*クリティカル・パス・ファンクションはシステムの原理を示す
4 キー・ファンクションの価値を測る
*インプット量を把握する
*アウトプット量を把握する
*アプローチ・チャートで価値改善の方向を見る
4章 【実践】ファンクショナル・アプローチ ステップ3 創造
1 アイデア発想の原理を知る
*「外発的因子」と「内発的因子」
*アイデア発想のくせをつける
2 5つのアイデア発想技法を使いこなす
*プッシュ型とプル型を組み合わせる
*ブレインストーミング4つのルール
3 出てきたアイデアを分類・整理する
*アイデアの有用性をチェックする
*アイデアをグルーピングする
5章 【実践】ファンクショナル・アプローチ ステップ4 洗練
1 アイデアを練って、練って、練り上げる
[手順1]利点を見つける
[手順2]利点を伸ばすアイデアを創造する
[手順3]欠点を見つける
[手順4]欠点を取り除くアイデアを創造する
[手順5]追加されたアイデアを取り込んで新しいアイデアにする
[手順6]さらに利点と欠点を見ていく
*「新たなアイデア」を「優れた解決手段」に成長させる
2 解決手段を組み合わせる
[手順1]キー・ファンクションを達成しているかを見る
[手順2]ロールプレイで相手の気持ちになりきる
[手順3]アウトプット量を確認する
[手順4]解決前後を比較し、解決手段の価値を確認する
[手順5]いよいよ解決手段を実行する
6章 日常をファンクショナル・アプローチで考える
1 見聞きするもの、手に触れるものをテーマにする
2 「何のために?」「誰のために?」に答えてみる
3 キー・ファンクションを見つける
4 価値のグレードを判断する
5 もし改善するなら、どのようにするかを考える
終章 ファンクショナル・アプローチは羅針盤である
*ファンクショナル・アプローチは“羅針盤”
*ファンクショナル・アプローチで就職活動を乗りきる
*ファンクショナル・アプローチで職場の残業を減らす
*ファンクショナル・アプローチで最高のプレゼンテーションをつくる
*ファンクショナル・アプローチでクレーム対応を改善する
*表現された結果からファンクションを見いだす
*あなたこそが羅針盤
付録 ファンクショナル・アプローチ・シート
こんにちは。著者の横田尚哉です。
じっくりと分析いただき有難うございました。
この本の第1章は、言われるとおり、とても大切なメッセージを書きました。
1章を何度も読んでいただきたいです。
壁にぶち当たって問題解決できず、困っている人や、ワンランク上を目指そうと思っている人にお勧めです。
これからも宜しくお願いします。
投稿: 横田尚哉 | 2008年9月20日 (土) 21:45