フロネシス(賢慮)型リーダーシップ
野中郁次郎、紺野登「美徳の経営」、NTT出版(2007)
お奨め度:★★★★1/2
卓越した企業が、美しさとしたたかさを併せ持つ。このような企業をフロネシス(賢慮)という概念を中心に、作り上げていこうと説く一冊。
美徳の経営とは
「共通善を念頭に社会共同体の知を生かす経営」
であるとこの本では述べられている。まさに、米国型の経営に対する強烈なアンチテーゼである。非常に興味深く、また、この本の説得力を増しているのは、たくさんの事例が挙げられていることだ。
英国のコオペラティブ・バンク、バングラデシュのグラミン銀行、クラレや資生堂、財閥三井はどが、賢慮に基づく経営の例として取り上げられ、さらには、それらの企業が賢慮をどのように育成しているかを紹介している。
そして、これを人間に対するイノベーションだと位置づけており、そこに、著者たちの取り組んでいる「暗黙知」や「デザイン」が位置づけられる。そして、これから卓越した企業になっていくには不可欠であることを述べている。この中で、不祥事で有名になった企業をチクリとやっているのも見逃せない。
美徳とは何かという話だが、簡単にいえば、共通善によりもたらされるもので、CSRに通じていく概念である。その点でも、米国流の経営に対するアンチテーゼとして説得力のある話である。
昨年、小泉政権が終わり、安部政権が始まったときに打ち出したメッセージは「美しい」と「イノベーション」であった。このメッセージで漠然と思い浮かべたのがこの本にあるような内容だ。
若干迷走気味であるが、ぜひ、産業施策においても、ぜひ、このような方向性を見せてほしいものだ。そのヒントになる本である。
目次
第1章 新たな卓越性と美徳
第2章 共通善の経営
第3章 実践知としての賢慮
第4章 「賢慮」型リーダーシップ
第5章 感情的資質について
第6章 賢慮の育成
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