「決めるべき」ことを「決める」とうまく行く
リクルートHCソリューションユニット、太田芳徳「 「決める」マネジメント――人を活かす職場をつくる」、英治出版(2009)
お奨め度:★★★★★
昨年来、マネジャー・課長向けの本がたくさん出版されているが、ついに決定版が出てきたという感じの本。正解のない時代に明確なマネジャー像を与えてくれる一冊。問題分析がしっかりとしているので、これからマネジャーになる人のためのお勉強ではなく、むしろ、課長で苦労している人、特に「アクティブ・ノンアクション」に陥っているマネジャーにぜひ、読んでほしい一冊。
本書は、正解のない時代においては、従来のマネジメントの手法は通用せず、それに関わるマネジメントが必要であるという前提に立っている。従来のマネジメントとは、マネジャーやシニアマネジャーを地位と考え、地位で地位で組織を動かしていく方法である。著者が指摘する、もはや通用しないマネジメント(上司論)とは、
(1)「やってみせ、言って聞かせて・・・」
(2)勘違いした「やってみなはれ」
(3)上司の背中をみて、部下は育つ」
(4)「上司は人格者たれ」
(5)「とにかく部下の話を聞こう」
などである。ここでは紹介しないが、これらがどうして通じなくなったかというのをかなり詳しく、納得性高く書いてある。実際に僕の経験でいえば、悩めるマネジャーの8~9割の原因をカバーしているのではないかと思うくらいだ。まずは、この原因分析を読んでみてほしい。
これらの方法論が通用しないことを前提に、マネジャーは何をすべきか。ポイントはいくつかある。真っ先に取り上げるのが、マネジャーが扱うのは、「ヒト」、「コト」の現在と未来で、現在のヒトとコトの管理、つまり、労務管理と工程管理にバランスが偏りすぎ、文字通り「管理職」になっており、これがマネジメントをゆがめているという。
そうではなく、ヒトもコトも「未来」を扱うのがマネジャーの仕事だ。未来を示すということは、方針を示すということだ。現在に忙しく、方針が決められないために、
方針が示せない
→部下が自分で判断できない
→仕事を任せられず、マネジャーが介入する
→日々の管理業務に時間をとられる
→落ち着いて未来を考える時間がとれない
→方針が示せない
という悪循環に陥っている。さらにこれに加えて、
仕事を任せられず、マネジャーが介入する
→部下は効力感がなく、将来が見えない
→意欲ダウン
→試行錯誤を通じた成長が起こりにくい
→マネジャーの業務負荷を軽減できない
→日々の管理業務に時間をとられる
という形で部下を悪循環に巻き込んでいる。この悪循環を解消するには、方針を示すことが必要で、方針を示せば
→方針が明確
→部下が自分で判断できることが増える
→各論を任せても大丈夫
→マネジャーの時間の余裕ができる
→次の方針を考えることにフォーカス可能
という好循環に変わる。さらに、部下においても、
各論を任せても大丈夫
→部下は仕事の意味、効力感を感じやすい
→意欲アップ、挑戦を促進
→試行錯誤を通じた成長が起こりやすい
→権限委譲をさらに進められるい
→マネジャーの時間の余裕ができる
という好循環が生まれる。これがこの本のコアメッセージである。
このために、マネジャーは
(1)自組織の方針を決める
(2)方針をもとに、メンバーの役割を決め、日々の仕事を任せ、育てる
(3)方針をもとに日々判断し、メンバーにフィードバックを行い、行動・考え方を修正する
(4)方針を振り返り、修正や改善、調整を加えて更新する
というPDCAサイクルを回す必要がある。このPDCAサイクルを回すために、マネジャーが実践すべきことは
(1)方針を立てる
(2)方針を組織に浸透させ、実行し、振り返る
(3)心構えを変える
の3つである。本書では、これらについて最後の1章をさいて、相当具体的に説明している。
この本の内容は、かなり明確な意見を述べたものである。マネジャーなので、とりあえず、リフレクションをすべきだというような発想ではなく、おそらく10人中7~8人のマネジャーが陥っている状況を取り上げ、かなり断定的に原因やソリューションを提案している。
その点について、かちんとくるマネジャーはいるかもしれないが、相当、論理的に構成されており、納得性も高いもので、該当しない2~3人のマネジャーも書かれている内容には納得できるのではないかと思う(僕は当たっていない部分が多いが、でも書いていることは納得した)。
その意味ですべてのマネジャーに読んでほしい本である。
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