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2008年9月 6日 (土)

本当のワークライフバランスとは

4820717251 吉越 浩一郎「 「残業ゼロ」の人生力」、日本能率協会マネジメント 出版情報事業(2008)

お薦め度:★★★★

ベストセラー「「残業ゼロ」の仕事力」の吉越 浩一郎氏の第2弾。前書の背景であり、また、結末であるともいえる1冊。

僕はワークライフバランスという考え方にあまり共感できなかった。社会的な生産性が高まるという理屈は理解できるが、結局のところ、誰もがスムーズに仕事ができるのかというワークシェアリングの方法論に過ぎないような気がしていたからだ。

たとえば、僕たちが会社に入ったときの新入社員教育で、休日は仕事への英気を養えるように、遊んだり、趣味に興じたりして、有意義に過ごして下さいというようなアドバイス(?)があったものだが、これと変わらない話だと思っていた。

その意味で、著者の前著でも、ワークライフバランスの部分はどうでもよいと思っていた。ただ、この本を読んでワークライフバランスに対するイメージが変わった。この本で一番印象に残ったところは、定年退職した人に日本人は「もったいない、まだ、働けるのに」といい、フランス人は「うらやましい」というという話。

なぜ、このような発想になるのか、良くわからない。著者がいうように、定年後が人生の本番(著者は本生と言っている)だとも思わないが、同じことを40年も50年もやりたいとも思わない。

なんとなくだが、30年というのはひとつのことを続けるには適切な期間だと思う。そう考えると、定年をきっかけに何か新しい生活に入るというのは悪くない。それが著者の場合はバカンスなのだろうが、陶芸家になってもいいし、冒険家になるのもいいかもしれない。そういう意味でのワークライフバランスというのであれば共感できる。

そう考えると、社会に出で仕事をするために学校に行き、準備をしてきたように、はやり、準備は必要だろう。これがこの本のもっとも重要な主張。

そのためには、仕事をしているときから、ある程度の準備が必要で、その時間の捻出のために、前書に書かれているように残業などすべきではないという発想は非常によく理解できる。

また、今回新しい主張として、「自立」するというのがどういうことかという議論が出てくる。この議論もなかなかよい。通常、自立していないというとキャリアのイメージがあり、会社でしかキャリアを送れないというイメージがある。これはこれで間違いではないと思うが、著者がいう自立とは、仕事からの自立である。仕事からの自立が、定年までの時間を次のステージに進むための準備のキーになるというのが著者の意見だ。

著者がいうような定年後の人生をバカンスで過ごすかどうかは別にして、3つ目のライフサイクルへうまく移行することに関心があるのなら、読んでみる価値のある一冊である。

さて、この吉越さんの本を読むときに、同時に読んでほしい本がある。こちらの本だ。

406159026x ダニエル・レビンソン(南博訳)「ライフサイクルの心理学」、講談社(1992)

ライフサイクルを心理的に考えたのは、ユングである。ユングは、人生を太陽の運行になぞらえて、図のようなライフサイクルを考えた。午前中は自身が上昇し、拡大していく時期である。そして正午になると、Jung_2

「太陽は、予測しなかった正午の絶頂に達する。予測しなかったというのは、その一度限りの個人的存在にとって、その南中点を前もって知ることができないからである。正午12時に下降が始まる。しかも、この下降は午前すべての価値と理想の転倒である。太陽は、矛盾に陥る」

となる。つまり、午前中とは同じ生き方はできないので、価値観を転換する必要があるが、この際に必要なのは「個性化」だというのがユングの考えである。みなさんは自分の人生が何時くらいだと思っているだろうか?

これに対して、レビンソンは上に紹介した本で、ユング理論を実証的に考えた。レビンソンが考えたのは以下のようなモデル。レビンソンは、7年以上持続する生活構造はないといい、人生では次から次に、生活構造の変化が訪れるという。

Levinson_2ユングやレビンソンのライフサイクルの特徴は、中年期や老年期も含めて、一生を発達の対象にしていることである。レビンソンのモデルを見ても、中年期は中年期の発達がある。ユングも同じで、このときには若いときのように拡大ではなく、個性化であるとしている。

吉越さんが盛んに述べているのは、老年期の発達である。ただ、ライフサイクルは不連続なものではない。危機や変化はあるが、連続的なものであり、特に老年期の発達を考えた場合には、それなりの成人前期や中年期を過ごす必要があるということだと思う。

みなさんはどうお考えだろうか?

【目次】

はじめに
第1章 なぜ「残業ゼロ」で人生力が上がるのか
○人生トータルの「勝ち組」を目指せ
○毎日3時間を「本生」の準備に投資する
○諸悪の根源はまたも残業
○日本人が苦手な「お金」の考え方
○仕事期に稼ぐ目標額を試算せよ
○「仕事沼」にはまらないよう注意する
○努力ではなく成果を評価する
○「自立した個」が活躍する時代
第2章「仕事力」あっての「人生力」
○残業が「仕事力」を奪う
○まずは始める。そして続ける
○「仕事力を上げる」が「人生力を上げる」の大前提
○仕事力=能力×時間×効率
○効率5倍で売上5倍
○効率化の第一歩は「TTP」
○「デッドライン」の2大ポイント
○ニッポンの「本生期」の現実
○人生の収支決算を黒字にするために
○定年後にネガティブなのは日本人だけ
○「健康」「幸福」「富」を準備する
○「パフォーマンス三角形」のベースは体力
○急増する糖尿病もうつ病も残業が原因
○その会社の平均寿命は何歳か?
第3章「残業ゼロ」の次は「バカンス」を実現せよ
○世界は疾病休暇なのに、なぜ日本は有給休暇?
○未消化の有給休暇が消えるのは日本だけ
○一週間では長期休暇ではない
○バカンスは「本生」の予行演習!
○夫婦ふたりきりで二週間過ごす自信がありますか?
○新入社員でも夏休みは一カ月
○「あきらめ癖」はイメージ力でなおる
○ゴールデンウィークは本当に黄金色?
○有休完全取得の経済効果は11.8兆円
○これが吉越流バカンスだ!
○長期休暇のビフォア・アフター
○バカンスがとれるのが「おとなの組織」
○最後は自分で考え、行動を起こす
第4章「残業ゼロ」なら子育ても楽しい
○必要なのは「競争社会」を生き抜く力
○世界はもっと野性的で、もっとハングリー
○子どもには上下関係を教えよ
○まず「親子の会話」を増やすことから始める
○子育てを楽しめるのは反抗期まで
○共働き時代の新しい制度を!
○母親の役割、父親の役割
○母親にしか教えられない「気づき」の力
○子どもにも残業をさせるのか
○「自立した個」になるために
第5章 人生を豊かにする人脈術・交流術
○それまでの「当たり前」が消失するのが定年
○仕事のゲームオーバーで人脈もリセット?
○パーティーではセンターテーブルにいる
○夫婦同伴がオフ人脈につながる
○教養はオフの人脈を広げるカギ
第6章 吉越流「本生」の愉しみ方
○「仕事の達人」が「人生の達人」ではない
○自分の生活は自分で100%デザインする
○夫と妻の温度差が広がるニッポン
○1万語対100語の会話
○会話は夫婦一緒の食事から
○ゲームプレーヤーから「本生」へ
○ソフトランディング作戦で「荷降ろし現象」を防ぐ
○私の「本生」計画
○愛する人とバラの香りをかごう

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