現場から見たソフトウエア業界の問題と対応策
久手堅 憲之「日本のソフトウェア産業がいつまでもダメな理由」、技術評論社(2008)
お薦め度:★★★1/2
現場の視点から、日本のソフトウェア産業の問題を指摘した一冊。7人の男(賢者?)が対談をし、その内容を著者がうまくまとめている。7人はいずれも、業界では著名な識者で、
西田雅昭さん(自営、カリスマプログラマ)
田倉達夫さん(技術コンサルティング)
中野雅之さん(アクセンチュア調達統括)
庄司敏浩さん(フリーのITコーディネータ)
相楽賢哉さん(ITコンサルティングの会社経営)
三笠大和さん(流通システム開発コンサルティング、プロマネ)
手久堅憲之(ITコンサルタント)
の7人。文中の指摘を見ても、いずれもたいへん高い見識を持つことがうかがえる。
問題点の指摘は、企業、エンジニア、業界慣行、ユーザの4つの視点から行われており、それぞれ、ビジネスモデル、プロジェクト管理、開発プロセス、人材育成、調達管理、などたいへん、広い視点からさまざまな問題を指摘している。そして、その問題に対して、エンジニアは何をすればよいか、ユーザは何に気をつければよいか、ポイントをあげてメッセージを送っている。
この4つの視点で、おおむね、現場で起きている問題はそうざらいされているように思える。その意味でも大変な知見である。今、現場で働くエンジニア、あるいはユーザの現場で働く人は、こういう視点を持ちながら、キャリアアップ、スキルアップ、問題解決に取り組んでいくとよいだろう。
さて、実は本書のタイトルを見たときに、全然、別の問題指摘を期待して、最後まで読んでいった。これらの指摘は指摘でいいのだが、日本のソフトウエア産業の問題は現場よりも経営にある。
経営の問題は何点かこの本でも指摘しているが、一言でいえば、戦略経営ができず、工場長の経営に終始しているところに最大の問題がある。工場長の経営は構造的な問題がない場合には力を発揮するが、今のSIのようにどう頑張っても顧客がビジネス上投資できるコストでは思っているだけのシステムが作れないといった構造的な問題を抱えている場合には無力である。
この点について、これだけの見識を持った人がどういう答えを出してくれるのかを期待しながら読んでいったが答えを出さないままに終わったような印象がある。もう少し、内容にふさわしいタイトルをつけてほしいと注文をしておきたい。指摘事項が素晴らしいだけに残念だ。
【目次】
ソフトウェア産業に起きていることを今語ろう―プロローグ この業界の酸いも甘いも知っている男たち
第1章 技術がよりどころのソフトウェア会社がエンジニアの足を引っ張る―会社のここがダメ
第2章 仕事から生み出す価値が自分のところで止まっていないか?―エンジニアのここがダメ
第3章 「優良産業」を名乗れる日ははるかに遠い―業界のここがダメ
第4章 発注企業はこのパターンにはまって「ゴミシステム」をつかむ―ユーザーのここがダメ
神の手という名のプロフェッショナリズム―エピローグ
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