段取りとはサービス精神である
藤沢晃治「頭のいい段取りの技術」、日本実業社(2007)
お薦め度:★★★★
「段取り」をテーマに、ビジネスの中でのさまざまな活動の効率的な進め方を解説した一冊。
この本が何より素晴らしいのは、段取りを効率化の手段だと考えずに、
「サービス精神」
だと言い切っていること。トヨタの次工程はお客様という例を引き合いに出し、段取りは周囲の人に満足を与えようとすることの結果だと述べている。この考え方は、ゴール(製品)として何が欲しいか(どうすれば最終顧客が満足するか)を明確にし、そのためには、その前工程は何が必要かを考え、その考えに基づいて、次工程にうまく渡すにはどのように作業し、どのような品質を作りだせばよいかという連鎖を作り、すべての工程の段取りをすれば、結果として、スケジュールが効率的になり、同時に適正な品質が実現されるというものだ。
この基本的な考え方に基づいて、2章以下では、いろいろな段取りについて考えている。まず最初はスケジュール。ここでは、スケジュールの問題を同期のまずさ、つまり、必要なときに必要なものがないことだと整理し、それを確保するために、各工程にバッファをつけ、余裕を持たせることを提案している。
第3章は環境・情報整理の段取りの話で、バックアップにより時間をさかのぼるバックアップ術、ワークスペースをきれいにしておく「クリアスペース」などを提案している。
第4章は企画やプレゼンなどといった知的作業の段取りを考えている。そして、第5章ではその中からコミュニケーションに的を絞り、アポイントの精度を高める、デフォルト設定によるコミュニケーションの単純化といった提案をしている。
第6章は実践編ということで、プロジェクトのような複雑な仕事に、この本で述べてきたことを適用するにはどうすればよいかを解説している。
本書で示されているうまく段取りをするための主要な視点は4つあるように思う。
ひとつ目は、段取りを周囲に対するサービスだと考えること。第2章、第4章や第5章は、このような視点を持つだけとよく理解できると思う。
二つ目は確実性の確保。ここが一番、この本で力を入れているところで、スケジュール的な確実性だけではなく、さまざまな視点から確実性を確保することが段取りにつながる。バッファ、フェイルセーフによって冗長性を持たせて、確実性につながるというもの。2章や3章はこのような視点を持つことにより可能になる。これはスケジュールだけではなく、環境や情報管理にも適用されている。
三つ目は目標(ゴール)の明確化である。ゴールを明確にすることによって、段取りができるとともに、その段取りを実行するための動機が生まれるというもの。
四つ目は、本書の中ではあまり大きく取り扱われていないが、他人の力をうまく使うことだ。この本では、段取りをサービスだと定義することと他人の力をうまく使うことの関係は直接的には触れられていないのが残念だ。
全体的に段取りという視点から、まんべんなく、洗い出されている本なので、いろいろな使い方ができると思うが、冒頭にも述べたように、段取りに対する哲学のようなものを読み取り、自分なりのやり方を考えるためには、とても良い本である。
目次
第1章 「段取り」とは一体なにか?
第2章 余裕を生み出す「予定・時間管理」の段取り術
第3章 仕事スピードが上がる「環境・情報整理」の段取り術
第4章 超効率アップ!「知的作業」の段取り術
第5章 できる人の「コミュニケーション」段取り術
第6章 「ゴチャゴチャ仕事」の段取りのつけ方・動かし方─実践編
終章 段取りの目的は人生を楽しむこと!
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