日本のプロマネの最大の問題に対する処方箋
峯本展夫「プロジェクトマネジメント・プロフェッショナル―論理と知覚を磨く5つの極意」、社会経済生産性本部(2007)
お奨め度:★★★★1/2
日本でもPMPの数が2万人に近づき、この5年くらいの間に日本企業のプロジェクトマネジメントは格段に進歩し、欧米に近づいたという「説」がある。
しかし、実は、プロジェクトマネジメントについては、処方箋を間違っていたのでないかという思いもある。多くの日本企業は、プロジェクトマネジメントをプロセスとコンピテンシー(スキル)の問題として捉えてきた。そして、そのための薬を飲んできた。この薬がまったく、効かなかったわけではない。ある程度効いた。だから、冒頭に紹介したような見解がある。
ただ、症状を軽減するための薬であって、病巣を根治するための薬ではなかった。そんな印象が強い。この本は、病巣を根治するための処方箋である。
キーワードはプロフェッショナル、そして、プロフェッショナル責任である。この本ではまず、第1部でプロフェッショナルが持つべき責任について、PMIの提示した5つのプロフェッショナル責任をベースにして説いている。特に、インテグリティーについて正面から取り上げているプロジェクトマネジメントの本はたぶん最初だし、日本人になじみの薄い2つの責任概念(アカウンタビリティとレスポンシビリティ)を取り上げ、違いを明確にしている点は評価できる。ちなみに、メルマガでもこの議論をしているので、併せてお読みください(笑)。
アカウンタビリティとレスポンシビリティ
http://www.pmos.jp/honpo/note/note131.htm
次に第2部では、プロフェッショナル責任を果たすために、プロフェッショナルに必要な「近くのものを遠くからみる」というものの見方を説いている。その極意として、全体をとらえる、変化をとらえる、待つ、見えないものに挑む、前提を疑うの5つ。まさに、プロフェッショナルマネジメントの極意だといえる。この5つはぜひ、マスターしたい。
5つの極意のテーマのまとめ方はたいへん、「美しい」し、それ自体に価値があるといってもよいだろう。最近、プロジェクトマネジメントにおいても、ビジネスキャッチフレーズ的なものが目立つようになってきたが、峯本さんの言葉は、これらとは一線を隠した奥深さがある。峯本さん自身が、これらのテーマに挑戦しつづけていらっしゃるようだが、その表れだろう。
また、内容的にも、「リバース・スケジュール」、「前提条件のマネジメント」などは優れたアイディアだ。
第3部はPMBOKとPMBOKガイドという内包と外延を考え、PMBOKをどのように理解し、どのように適用していけばよいかを議論している。この議論もなかなか、面白い。プロジェクトマネジメントをプロセスとコンピテンシーだと思わせる一因になったのはいうまもなくPMBOKである。しかし、第3部の議論を読んでいると、知覚的に解説されていることで、そうではないことがよくわかり、PMBOKプロジェクトマネジメントの本質が見えてくるように思う。
全体的な感想としては、日本でもこういう本が出てくるようになったことは感慨深い。プロフェッショナルを自認するプロジェクトマネジャーの方は、ぜひ、峯本さんがこの本で展開している議論を真摯に受け止め、責任のあいまいさという日本組織の壁に挑戦してほしいと思う。
目次
はじめに
まえがき-本書のコンセプトと構成
コラム:「プロフェッショナルとは何か」-スペシャリストとプロフェッショナル
第1部 プロジェクトマネジメント・プロフェッショナル-その役割と責任
第1章 プロフェッショナル責任の背景
コラム:「2つの責任」-レスポンシビリティとアカウンタビリティ
第2章 プロフェッショナル責任とは何か
2.1 個人のインテグリティ(integrity)とプロフェッショナリズムの確立
2.2 プロジェクトマネジメント知識ベースへの貢献
2.3 個人の能力(competence)の増進
2.4 ステークホルダー間の利害関係の調整
2.5 チームやステークホルダーとの互いにプロとしての協調関係
第2部 プロジェクトマネジメント・プロフェッショナルの論理と知覚 -「近くのものを遠くから見る」その5つの極意
第3章 「近くのものを遠くから見る」極意その1-『型は美』全体をとらえる
コラム:「極意と真理」
第4章 「近くのものを遠くから見る」極意その2-『型は美』変化をとらえる
第5章 「近くのものを遠くから見る」極意その3-『技は心』待つ
第6章 「近くのものを遠くから見る」極意その4-『技は心』見えないものに挑む
第7章 「近くのものを遠くから見る」極意その5-『技は心』前提を疑う
第3部 プロジェクトマネジメント・プロフェッショナルのためのPMBOK超解説 -
第8章 PMBOKガイド総論
8.1 PMBOKとPMBOKガイド-「表出化」と「内面化」
8.2 PMBOKガイドの変遷-歴史に学ぶ
8.3 PMBOKガイドの目的-「内面化」を起こす
第9章 PMBOKガイド超解説
9.1 PMBOKガイドのフレームワーク
9.2 プロジェクト統合マネジメント
9.3 プロジェクト・スコープ・マネジメント
9.4 プロジェクト・タイム・マネジメント
9.5 プロジェクト・コスト・マネジメント
9.6 プロジェクト品質マネジメント
9.7 プロジェクト人的資源マネジメント
9.8 プロジェクト・コミュニケーション・マネジメント
9.9 プロジェクト・リスク・マネジメント
9.10 プロジェクト調達マネジメント
付録A プロジェクトマネジメント・プロフェッショナルの活動
A-1 PMPの資格更新制度(CCR)から見るプロフェッショナル活動
A-2 プロジェクトマネジメント・プロフェッショナルのコミュニティ
□プロジェクトマネジメント・インスティチュート東京支部(PMIT)
□日本プロジェクトマネジメント協会(PMAJ)
□プロジェクトマネジメント学会(SPM)
□マイクロソフト・ユーザーズ・フォーラム(MPUF)
付録B 補足説明-契約タイプFPIのロジック
付録C PMP試験情報
あとがき・謝辞
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