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2006年11月 3日 (金)

あなたは箱の中でリーダーしていませんか?

447979177901 アービンジャー・インスティチュート(金森 重樹監訳、富永星訳「自分の小さな「箱」から脱出する方法」、大和書房(2006)

お奨め度:★★★★1/2

PM養成マガジンブログ関連記事:プロジェクトという箱からでよう

この本の原題は「Leadership and self-deception」。deceptionは「騙す」という意味。米国でよく読まれるリーダーシップ読本の一つの邦訳。

邦題からも分かるように、「箱」という一風変わったメタファ(比喩)の中で、寓話を使ってリーダーシップの本質と構築方法をうまく説明している。

誰よりも努力し(ていると思っている)主人公は、ザグラム社という会社でよい職を得る。しかし、それまでのやり方がザグラム社では通用しないという事態に直面する。自分を守り、他人に影響を与えるとするやり方が、ザグラム社の風土に合わなかった。ザグラム社のリーダーシップは、自己原因性(すべての原因は自分にあるという考え方)に基づいていたためだ。

そこで、主人公は上司であるエグゼクティブからの問題指摘を受けると同時に、コーチングを受け、そのことに気がつき、箱の外に出て行くというストーリー。

このストーリーで、「箱」に並ぶキーワードが自己欺瞞。「自分への裏切り」と呼ばれている。自分への裏切りというのは自分の感情に反した行動を取った場合に、自分を正当化するためにさまざまな行動に出る。これが箱に入っている状態であり、人間関係、リーダーシップにさまざまな問題を引き起こすというのがこの本の考え方。「自己原因性(Personal Causation)」の議論として、感情に注目しているのはかなり面白いと思う。

この本では、この行動パターンがある限り、業績に結びつかないとしている。確かにその通りだ。

問題は箱から抜け出すにはどうすればよいか、これが問題だ。この本の示唆で非常に役立つのは、「箱に入っているときにしても無駄なこと」を明確にしている。

(1)相手を変えようとすること

(2)相手と全力で渡り合うこと

(3)その状況から離れること

(4)コミュニケーションと取ろうとすること

(5)新しいテクニックを使おうとすること

(6)自分の行動を変えようとすること

の6つ。この指摘は鋭い。確かに、多くの人が箱に入ったまま、これらの努力やトレーニングをしようとしている。無駄だというのも最初から読み進めていくとちゃんと納得できる。

最後に、箱から出る方法というのが書かれている。

「他の人々に抵抗するのをやめたときに、箱の外に出ることができる」

本の質と同じく感心したのが、翻訳の質が非常に高いこと。米国のオフィスを舞台にしたストーリーであるが、まったく違和感なく読める。米国発のこのスタイルの本は、ストーリーそのものに違和感があって落ちないが、この本にはまったくそれがない。

それからこの本を読んでいく中で、イラストの存在が非常に役立つ。ロジックが結構複雑なので、自分で図を書きながら読んでいかないとおそらく、頭が混乱してくる。それを代わりにやってくれるイラストが入っている。なんと、寄藤文平さんの非常に味のあるイラストだ。

最後に少し違う視点からのメッセージ。10年くらい前に亡くなった安部公房という作家がいる。哲学的な作品を多く残した作家で、抽象的ながらもプラクティカルな文学性は高く評価され、欧米にも多くの作品が紹介されている。その中の一つに、「箱男」という作品がある。

4101121168 安部公房「箱男」、新潮社(1982)

ダンボール箱を頭からすっぽりとかぶり、都市を彷徨する箱男。箱に隠れて覗きをしたり、普段はできないことをすることに快感を感じる。

そのような行動を繰り返しているうちに、やがて主人公は箱男から箱を買い取ろうとした医者の偽箱男へ、少年Dへ、露出狂の画家ショパンへとめまぐるしく移ってゆく。

そうしているうちに、誰が箱男か、箱男のエスノグラフィーを書いているのは誰なのかがわからなくなってしまう。

という話なのなのだが、「小さな箱から脱出する方法」の本質をより深く理解するためには、安部公房の「箱男」を読まれることをお奨めしたい。

目次
第1部 「箱」という名の自己欺瞞の世界(「君には問題がある」
自分だけが気づいていないこと
何も見えない状態に陥るとき ほか)
第2部 人はどのようにして箱に入るか(箱に入っているのは、あなた一人じゃない
箱の中に押し戻されてしまうとき
あなたを箱の中に追い込む「自分への裏切り」 ほか)
第3部 箱からどのようにして出るか(「素直な自分」を引き出す
「どうすれば箱の中から出られるか」
人として、相手と接する ほか)

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コメント

楽しいコメントありがとうございます。顛末もぜひ、教えてください。

 何かマスメディア(新聞 or Web)で話題になっていたことも記憶にあり、丸善・丸の内本店で購入、平積みだった。
 読み終わると同時に強い既視感を感じた。
 内容は納得できるものが多く、述べられていることはすんなりと腑に落ちるのだが、読後に「この感覚は何かの時に感じたことだ」としばらく思いを巡らせていたら、今年初めに会社のHR部門の要請で他企業に出向いて参加した「The Looking Glass Experience ;http://hrm.jmam.co.jp/eve_sem/lge_s/index.html 」の研修終了後に感じたことと、とても似ていたのだ。
 誤解を恐れずに端的に言ってしまえば両者とも「自分自身を適切にコントロールするための気付き」であり、少しカッコを付けて言えば(笑)「自己との対話」ではないかと思う。
 「The Looking ~」の時は以前、自分がやったPMで不適切であった行動が走馬灯(?)のように思い浮かび、「あのとき、ああしてればなぁ」とか「あれはPMとしては良かったのだろうか」等々いろいろ考えさせられた。
 今回の「箱」本は、事例として家庭の話も出てくるので、これはこれで家族との日々の関わり方をもう一度見直すという意味で良い気付きになると思う。
 家で読んでいたら、家族が興味を示していたので家庭内回覧をしようと思う。
 家族読後に「あなた(お父さん)出来てないじゃない」とか言われたら、結構ショックだが...

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