【コンセプチュアルスタイル考】第44話:非常識な本質
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【参考文献】
好川 哲人「コンセプチュアル思考」、 日本経済新聞出版社(2017)
https://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4532320623/opc-22/ref=nosim
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◆「非常識な本質」とは
お気づきになった方もいらっしゃるかもしれませんが、今回の記事のタイトルは以前、日産で名車GT-Rを開発された水野和敏さんが2013年にフォレスト出版から出版された書籍のタイトルと同じです。実は、この本に書かれているレースへの取り組みを、「コンセプチュアルスキル入門」講座で使わせていただいています。
まず簡単にどのような話なのか紹介しておきます。
水野さんはキャリアの初期にプリメーラの開発で実績を上げ、これからエンジニアとしてバリバリにやって行けると意気込んでいたときに、成績の振るわなかったカーレースの監督を命じられます。
カーレースの世界は、それまでは大きな出力のエンジンを積み、車体を軽くし、抵抗をなくすことによって如何に最高スピードを上げるという勝負でした。ところが、よく観察してみると、当時の代表的なサーキットコースだった富士スピードウエイでは、最高スピードで走れる直線は全体の18%に過ぎないことが分かりました。残りの82%はカーブになっており、直線でスピードを出すよりは、カーブを速く走る方が勝利に近づくのではないかと考えました。また、それ以外でもピットの時間をできるだけ短縮するなど、当時ではあまり注目されなかった点に着目し、工夫をしていきました。
そのような戦術は周囲から否定されましたが、もともと成績が悪かったチームを引き受けたこともあり、最終的には周囲を説得し、加減速が素早くできる車の設計、ピット作業の短縮に取り組み、見事にその年の年間チャンピオンとなったというストーリーです。
このように、これまでの常識を覆するところに見出した本質を水野さんは「非常識な本質」と呼んでいます。
一般に本質を見極めるのが難しい理由は、(抽象的で)「見えない」ところにあることだと考えられていますが、もう一つの難しい理由は「非常識である」ことではないかと思います。今回はこの問題について考えてみたいと思います。