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2012年3月 8日 (木)

【プロデューサーの本棚】「経験学習」入門

4478017298松尾 睦「「経験学習」入門」、ダイヤモンド社(2011)

◆あまりない経験学習の形式知

日本は経験主義である。経験にこだわって新しいことができないという実情を見ると、経験偏重だといってもよいだろう。その是非の議論をするつもりはないが、一つ思うのは、経験主義の割には、経験から学ぶノウハウを持たない人が多いし、そもそも、その方法は形式知化、言語化されていない。

その中で、例外的に形式知化されるのが「失敗経験」に対するもので、畑村洋太郎先生などの尽力で、「失敗学」として学問体系化されている。

それ以外の分野では、経験に学ぶことを主テーマにした議論というのはあまりなされていないが、その中で、プロフェッショナルの経験による成長プロセスを解明する研究をされていたのが、本書の著者である松尾睦先生である。松尾先生の著書の中で、

松尾 睦「経験からの学習:プロフェッショナルへの成長プロセス」、同文舘出版(2006)

という本があるが、この本は何度読んだかわからない。非常に示唆の多い本である。この本の対象はタイトルの通り、プロフェショナル人材であるが、もう少し、範囲を広げ、ビジネスマンやマネジャーにおける経験学習について論じたのが本書だ。



◆本書のイメージ

本書の問題意識は、経験で成長する人と、しない人の違いがどこにあるかだ。イントロとして、2人の営業リーダーの話がでてくる。

Aさんは、「お客さんとともに成長したい」という思いが強く、売れないときはなぜ売れないか、売れたときはなぜ売れたかを振り返り、自分の新しい売り方を模索している。また、受注が難しい顧客にも果敢にアプローチ、営業という仕事にやりがいをもっている。

Bさんは、他人に負けないことにこだわりをもっている。自分のやり方に信念をもっており、業績が落ちても、自分は間違っていないと自分のやり方を変えない。営業は訪問だと信じるBさんは得意とする顧客に熱心で、新規開拓には消極的だ。そのためか、成績は停滞気味で、営業の仕事に面白さを感じることができない。

どちらが評価されるかは分かると思うが、Aさんになるにはどうすればよいかというのが本書の主題である。


◆経験から学ぶ力のモデル

まず、経験から学ぶ力を

適切な「思い」と「つながり」と大切にし、「挑戦し、振り返り、楽しみながら」仕事をするとき、経験から多くのことを学ぶことができる

とモデル化している。このうち、「挑戦し、振り返り、楽しみながら」を経験から学ぶ力の3要素と呼び、それぞれ、

ストレッチ:問題意識を持って、新規性のある課題に取り組む
リフレクション:行為を振り返り、知識・スキルを身につけ修正する
エンジョイメント:仕事のやりがいや意義を見つける

と定義している。


◆成長とは何か

1章では、成長とは何かと論じている。著者は成長を

・能力的成長
・精神的成長

としている。能力的成長は、仕事上の問題を発見し解決するために必要な知識やスキルを獲得することとしている。ロバート・カッツのモデルを使って、テクニカルスキル、ヒューマンスキル、コンセプチャルスキルの3つのスキルを、組織内の階層に応じて必要なものを習得することによって実現されると説明する。

精神的成長は、仕事に対する考え方が適切なものになることと定義している。考え方には、自分への思いと他者への思いがあり、両者が高いレベルで統合されることが精神的成長だと説明する。


◆経験学習サイクル

第2章では、経験学習を実行していくためのサイクルについて述べている。それは、

(1)「具体的経験」をした後、
(2)その内容を「内省し」
(3)そこから「教訓」を引き出して
(4)その教訓を「新しい状況に適用する」

というものである。このサイクルを回すにあたって重要な点は、「よく考えられた実践」をすることで、そのための条件は

・課題が適度に難しく、明確であること
・実行した結果についてフィードバックがあること
・誤りを修正する機会があること

の3つである。


◆3つの力

3章は3つの力について具体的な方法とポイントを説明している。

まず、ストレッチについては、

・挑戦するための土台をつくる
・周囲の信頼を得てストレッチ体験を呼び込む
・できることをテコに挑戦を広げる

の3つである。次にリフレクションについては

・行為の中で内省する
・他者からフォードバックを求める
・批判にオープンなり未来につなげる

の3つ。最後に、エンジョイメントについては

・集中し、面白さの兆候を見逃さない
・仕事の背景を考え、意味を見いだす
・達観して、後から来る喜びを待つ

の3つだ。


◆思いとつながり

これらの3つの力を高める原動力になるのが、「思い」と「つながり」である。この2つについて、4章で議論している。

思いについては、強ければよいというのではなく、適切な、正しい思いが必要だとする。適切だとは、自分の思いだけではなく、他者のことを大切にする思いだ。たとえば、商品を開発するときに、すごい、認められたいと言うのが自分の思い。お客さんをびっくりさせたいというのが他者への思い。これが高いレベルで統合されるとエース人材になる。

思いに影響を与えるのがつながりだ。つながりの中でも発達的なつながりと呼ばれるメンターを持つことが大切だ。発達的なつながりは

・キャリア上の支援
・心理的支援
・ロールモデリング

の3つの支援を介したつながりだ。このようなつながりを持つには

・自ら発信し、相手を受け入れる
・人を選び、誠実に付き合う
・職場外から率直な意見を聞く

の3つを心がけるとよい。このようなつながりを持つことによって、率直で本質的、かつ、広い視点からのフィードバックが期待できる。


◆部下の指導とツール

5章は、部下が経験から学ぶことができるように、如何に指導するかという議論を、OJTを中心に解説している。ツール等の紹介も含めて、かなり具体的で、すぐに使える。

6章では、学ぶ力を高めるためのツールとして

・経験学習力チェックリスト
・経験学習カルテ
・経験キャリアシート

の3つの診断ツールを提案している。本書の主張に従った簡単なルーツである。


◆なぜ、経験から学べないのか?

フレームワークを見ると、多くの人が話は分かるが、あまり現実的ではないと思うのではないかと思う。たとえば楽しんで仕事をするというのは言うのは簡単だが現実には難しい。しかし、内容を読んでみると、その点は著者は百も承知で、かなり踏み込んで具体的な提案をしているのは評価できる。

また、この本はマネジャーのインタビューをふんだんに掲載してある。このインタビューが何よりも面白い。申し訳ないが、このインタビューを読んだだけでも、この本の本質は習得できるのではないかと思う。

一方で、一つだけ、腑に落ちないというか、現実離れした前提がある。それは、上司は優秀であるという前提だ。しかし、この本でいう6割の人材が経験で学んで成長するためには、上司の指導が問題になることは間違いない。インタビューしているマネジャーやシニアマネジャーは確かに優秀だ。しかし、経験的にこのようなレベルのマネジャーやシニアマネジャーはそんなにいない。アホなマネジャーであれば、6割の人が経験から学ぶことは絶望的だろう。

それが現実の世界で経験から学べる人と学べない人がいる理由ではないかと思う。

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