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2012年3月 2日 (金)

【PMスタイル考】第38話:ゲームというスタイル

◆反復可能性と予測可能性と新規性

Gameプロジェクトマネジメントの成熟度という考え方があります。プロジェクトとは、初期の状態から、目指す状態に移動することですが、システム開発やプラント開発のように生産を目的とするプロジェクトでは、常に変わらない結果が欲しいので、反復可能で、予測可能な結果を目指して作業を管理します。つまり、成熟度が高くなるとは、この2つの可能性が高くなることに他なりません。

可能性を高くするためには、ゴールは具体的で定量的であることが求められます。

ゴールが明確な場合には、決まった業務プロセス(たとえば、開発プロセス)を踏むことが最良の方法です。したがって、プロジェクトマネジメントは業務プロセスを計画し、実行していくことに最大の役割があります。

一方で、プロジェクトには、新規性という特徴があります。従って、あるプロジェクトの業務プロセスは以前のプロジェクトの業務プロセスの反復ではありませんし、また、業務プロセスによって予測できない部分も出てきます。



◆リスクと不確実性の違い

そこで、プロジェクトマネジメントはこれらをリスクとして取り扱います。では、リスクとはなんでしょうか?20世紀を代表する経済学者の一人であるフランク・ナイト博士が興味深い指摘をしていますので、ご紹介しておきます。ナイト博士はリスクと不確実性は異なると指摘しています。

リスクと不確実性の実際の違いは、リスクにおいては母集団における分布が過去の経験で分かっているのに対して、不確実性の場合にはわからないことである。その理由は一般的には、扱う状況が高度にユニークであるため、母集団が分からないからである。


これはプロジェクトマネジメントにとって非常に示唆に富む指摘です。リスクと不確実性をごちゃ混ぜにしている人が少なくありませんが、リスクと不確実性は本質的に異なるものです。


◆リスクは計画の曖昧性、不確実性は計画が作れない

リスクが識別されるのは、計画が作れるときです。計画が作れるときに、状況に「曖昧性」があればリスクが発生します。そのような場合には、計画に対して、どのような問題が起こるかは経験的に分かっています。それがリスクです。

ところが、不確実性がある場合には、計画そのものができません。

一つ例を上げて考えてみます。世の中にすでに確立されている技術を活用してシステムを開発するとします。母体組織やプロジェクトのメンバーはだれも当該技術の経験がありません。この場合、この技術の適用は、「適用に予想以上の時間がかかる」とか、「適用条件がうまくフィッティングしない」とか、いくつかのリスクを生み出します。

これに対して、経営トップの要求で、世の中でまだ、確立されていない技術を開発してシステムを開発するとします。この場合、この技術は不確実性で、この技術を開発することがどのような問題を引き起こすのかすら分かりません。生産型のプロジェクトではこのような判断はしないでしょう。不確実性は、反復不可能であることはもちろん、成果が予測不可能です。


◆ITの大規模プロジェクトはなぜ、難しいのか

さて、前置きが長くなりましたが、この10年くらいで生産型プロジェクトのマネジメントは一段落してきました。すべてのプロジェクトがうまく行っているわけではありません。その一つが大規模プロジェクトです。大規模プロジェクトはなぜ、難しいのか。これは2つに分けて考える必要があります。

一つは、建設、プラントなどのように数年かけて行うプロジェクトでも一旦計画を決めてしまえば、ニーズ変動があっても基本的には調整しながらそのまま計画を進めていくタイプです。大雑把にいえば、成果物のライフサイクルが長いものの開発プロジェクトはこのタイプになります。

これに対して、ITのように、開発中に環境変化があれば、プロジェクトを「適応」させていくタイプのプロジェクトがあります。これは、ライフサイクルが短く、成果物のスペックがROIに大きな影響を持つものの開発プロジェクトによく見られます。つまり、ゴールに不確実性があるわけです。

ITでいえば、ビジネスプロセス変革が絡むシステムが代表的な例ですし、商品開発では、すべてのプロジェクトがそのような成果を求めているといっても過言ではないでしょう。


◆曖昧なゴールと明確な針路を実現するゲームストーミング

不確実性に向かっていくプロジェクト(プロジェクト2.0、ここでは創造型プロジェクトと呼ぶ)では、予測可能なことよりも、画期的なアイデア、言い換えると予測不可能な成果をもたらすアイデアが欲しいわけです。

創造型のプロジェクトは、開発プロセスを計画し、その通りにやっていくという方法では管理できません。

だからといって、方向性もなく進んでいくというのでは何も得られない確率大です。不確実性に向かっていくには、明確な針路が必要です。ゴールがあいまいなままで、針路を明確にし、進んでいく。これは従来の開発プロセスではできません。

そのようなプロジェクトのマネジメントで、注目されている手法の一つにゲームストーミングがあります。ゲームストーミングは

ゲームのアルゴリズムと視覚的効果および効用を利用してグループワークを促進させる手法・技術・行為の総称

だと定義されます。もう少し、具体的にいえば、開発プロセスの因果連鎖ではなく、

探索→実験→試行錯誤

のための枠組みです。ソフトウエアにアジャイル開発という手法があります。不確実なゴールに対する開発手法として普及してきていますが、それを一般化し、どのようなプロジェクトにでも適用できるようにしたのが、ゲームストーミングだと考えると分かり易いと思います。

実際に、ゲームストーミングには80以上のゲーム(アジャイルのプラクティス)が準備されています。これを見ると、アジャイルのプラクティスは技術的なものを除くとほとんどカバーされていると思います。

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