ゆとりをもって仕事をしよう(2)
弊社ではコンサルティングの中に、エスノグラフィーに取り入れている。エスノグラフィーについては、こちらを参考にしてほしい。
ある年に、CADを開発している企業(部門)で、5ヶ月をかけて延べ18日間のエスノグラフィーを 行ったことがある。テーマはプロジェクトマネージャーの仕事とコンピテンシー。書いたものは門外不出なのだが、非常に多くのことが分かった。まさに、百聞 は一見にしかず。
この仕事では、CADのカスタマイズをする、ほぼ、同条件の2つのプロジェクトのエスノグラフィー。観察対象はプロジェクトAとプロジェクトB。双方とも期間は3ヶ月。要員数は両方とも6~7名。
プロジェクトAはほとんど計画通りに進んだ。プロジェクトBは2ヶ月目の要件を確定する時期にすでに10%のスケジュール遅れが生じた。最終的に、Bは5ヶ月の期間を要した。
この2つのプロジェクトを見ていると面白いことに気づいた。メンバーのスキル、プロジェクトマネージャーの力量はほとんど変わらない。申請している 残業時間、実態の残業時間もほとんど変わらない。つまり、両方とも、同じくらいの忙しさで仕事をしていたことになる。お客さんは直接の観察の対象にできな かったためはっきりしないが、インタビューをする限りでは、お客さんもそんなに変わらない。ところが、成果に差が出た。
顕著に違った点が1点。この会社では朝、朝礼をすることがルールになっている。プロジェクトAは朝礼を非常に丁寧にやっていた。プロジェクトBは形 式的に5分程度で週に1回進捗会議をやっていた。プロジェクト期間が3ヶ月目に入ることにそれぞれのメンバーに対して、プロジェクトの内容に関するインタ ビューを試みた。Aは各メンバーがそれなりに何をやっているかを知っており、プロジェクトマネージャーの思惑やプロジェクトの目的もよく理解していた。B は1名を除くとほとんどできていない。
見た目に、Aのメンバーは余裕を持って仕事をしている。朝礼で時間がかかる場合でもしっかりとした議論をしている。他のメンバーの予定に変更があってもほとんど手待ちをすることなく、自分のスケジュールの修正をしている。
ところがBの方は、バタバタ。何か変更があろうものなら、みんなが走り回る状態になる。普段もまったく余裕がない。追い詰められたような雰囲気で仕事をしている。
この2つの差はどこにあるのだろうか?はっきりしているのは、Aプロジェクトはそれぞれのメンバーに全体の動きが見えている。その上で、自分の判断で毎日どのように行動すべきかを決定している。自立するとはそういうことだ。
Bはメンバーに全体の動きが見えていない。したがって、すべての変化は突然やってくるので、その対処に追われる。
結果として現れるのは大きな違いであるが、実はこの違いはそんなに大きな違いではない。プロジェクトマネジメントの概念に「プロアクティブ」という概念がある。日本語でいえば、先手必勝。最初の手が自分から打てるかどうかの違いである。
プロジェクトAのプロジェクトマネージャーはメンバーの先手必勝をうまく演出している。プロジェクトBのプロジェクトマネージャーはそれがあまりう まくできていない。その違いだ。先手必勝によりゆとりが生まれる。ゆとりはゆとりを生み出す。その原資となるゆとりを如何に生み出すかがプロジェクトマ ネージャーのスキルである。
このような議論をするときにメンバーの資質を問題にする人が必ずいる。つまり、誰でも同じように先手必勝で動けるわけではないという議論だ。それはそのとおりだと思う。
しかし、もうひとつ忘れてはならないことがある。それは、「ゆとりがゆとりを生む」というのは個人の話にとどまらない。チームの話でもある。すなわ ち、チームのあるメンバーのゆとりは、別のメンバーにもゆとりを生み出す。経験的に、非常に優れた人材がメンバーにいるチームはモチベーションのコント ロールさえうまくできていれば、他のメンバーの生産性があがる傾向がある。優れたメンバーに過度に依存するのは、モチベーションがうまくコントロールでき ないためである。これもまた、プロジェクトマネージャーの仕事であろう。
by 好川哲人
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